本研究では、タンパク質のような生体分子でチタンやその合金の表面を修飾することにより耐食性の向上、防食が可能か否かについて検討するものである。本年度は、他の歯科用合金(タイプ1金合金、タイプ4金合金、金銀パラジウム合金)を含めて、そのタンパク質溶液中での電気化学的腐食挙動および静的浸漬試験による溶出試験について検討した。その結果、溶液中でのタンパク質の有無で電気化学腐食挙動に違いが見られず、また、静的浸漬試験による溶出試験の結果からも溶出金属が確認されなかった。したがって、純チタンはタンパク質溶液中では、他の歯科用合金と同等、もしくはそれ以上の耐食性を有することが明らかになった。しかし、タンパク質吸着量を電気化学的システム搭載型重量計で測定するまでには至らず、腐食電位との関係を含めて今後に課題を残した。 一方で、純チタンの過酸化水素巣溶液中における電気化学的腐食試験および静的浸漬試験による評価を新たに展開した。巨食細胞(マクロファージ)による炎症が起こった際のチタンおよびチタン合金(Ti-0.15Pd、Ti-6Al-4V、Ti-6Al-7Nb、Ti-55Ni)の耐食性や変色を想定して、150mM過酸化水素を含む生理食塩水を酸性領域(pH4、5、6)に調整し、その中での電気化学的腐食試験および静的浸漬試験による変色、溶出試験を行った。その結果、酸性過酸化水素含有溶液中において、Ni-Ti合金を除くからの溶出は確認されなかった。その変色は、pH4の過酸化水素含有溶液中ではいずれの合金も変色した。純チタンの電気化学的腐食試験の結果、酸性溶液中では酸化の進行が速く、不動態被膜の生成が促進されていることが推察された。また、pH4の環境下では、その進行が急速に進み酸化被膜が厚くなり変色していることが明らかになった。
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