研究概要 |
軟性裏装材は,床用レジンと比較して化学的洗浄剤,および吸水などによる劣化が激しいことや滑沢な研磨面を得ることが困難であるという欠点がある.また劣化や粗造な研磨面によりデンチャープラークや石灰化物の沈着を招いてしまうことで軟性裏装材本来の利点である粘弾性や化学的安定性が損なわれるとともに,床下粘膜の炎症につながることも少なくない.そこで,二酸化チタンの大きな利点である半永久的に効果が持続する安全無害な触媒作用を軟性裏装材のポリマーに配合することで抗菌性を有する義歯を作製していく. 軟性裏装材として加熱重合型粘弾性レジンであるフィジオライナー(ニッシン社)を用い,重合前にアナターゼ型二酸化チタンをそれぞれ0wt%,1wt%,5wt%,10wt%,20wt%含有させた厚さ3mm,幅20×20mmの試験片を作製した.供試菌株はEscherichia coliIID560株を液体培地にて培養したものを使用した.また光触媒作用を増強するためブラックライト(波長360nm)を20cmの距離から照射し実験を行った.1.56×10^6CFU(Colony Forming Unit)/mlに調整した菌液1mlを試験片上に塗布し,ブラックライトをそれぞれ2,4時間照射後の残存細菌数を算定した.菌数の算定には寒天平面培地上に規定時間経過後の菌液をそれぞれ塗抹し,37℃にて24時間培養後にコロニー数のカウントを行った.いずれの試料においても含有率,およびブラックライト照射時間が上がるにつれて残存細菌数は減少する傾向であり,二酸化チタン5%以上であれば照射時間4時間で死滅率が100%,また20%の試験片では2時間照射で死滅するという結果が得られた.本実験において二酸化チタンは,義歯床用レジンと同様に粘弾性レジンにおいても抗菌作用を示す傾向が得られたことから軟性裏装材においても二酸化チタンの有用性が示唆された.
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