マスピン1994年Zouらによりはじめて報告された42kDaのセリンプロテアーゼインヒビターであり、多くの正常組織においてその発現が確認されている。生物学的作用としては現在までに腫瘍抑制作用、血管新生抑制作用が知られている。これらの作用はマスピンがセリンプロテアーゼインヒビターである2つのPlasminogen activatorを阻害することにより発現すると考えられている。このことから本研究では、骨の成熟過程における細胞外基質中のTGF-betaがplasminにより活性化の制御を受けていること、plasminはPlasminogen activatorによりPlasminogenから変換されることに着目し、内軟骨骨化過程において、セリンプロテアーゼインピビターの一つであるマスピンが骨形成やリモデリングにおいて何らかの生理的役割を演じている可能性に着目した。 まず、ラット脛骨での内軟骨性骨化過程におけるマスピンの発現につきin vivoで免疫組織化学的手法により検討したところ、骨を形成する活発な骨芽細胞に強いマスピンの発現が認められた。さらにin vitroにおいてマスピンの発現を検討するため、ラット骨芽細胞様細胞株ROS 17/2.8および初代培養ラット骨芽細胞を用いてRT-PCR法によりマスピンmRNAの発現を検討したところ、両細胞においてマスピンmRNAの発現が確認された。さらに免疫組織化学的手法およびウエスタンブロット法によりマスピン蛋白質の発現を検討したところ、両細胞ともにマスピン蛋白質を発現していることが確認された。さらにマスピンが実際にどのような生理的役割を及ぼしているのか検討した。最初に、マスピンの過剰発現が骨芽細胞に及ぼす生理的役割を明らかにするために、ラットマスピン遺伝子を挿入した発現ベクターを作成した。これをROS 17/2.8にトランスフェクションし、クローニングシリンダー法により、安定なマスピン過剰発現細胞株を得た。コントロールとして空ベクターをトランスフェクションした細胞株を用いて、両細胞でウエスタンブロット法によりマスピン発現量を比較し、得られたマスピン過剰発現細胞株がコントロールに比較して実際にマスピンを多く発現していることを確認した。この細胞を用いて、経時的に培養し、14日目までのTGF-beta蓄積量をELISA法にて解析したところ、コントロール株に比較してマスピン過剰発現細胞株では、早期に細胞外基質へのTGF-betaの蓄積が認められた。さらにこのときの骨関連遺伝子のmRNA量をマスピン過剰発現細胞株とコントロール株で比較したところ、マスピン過剰発現細胞株で早期に骨関連遣伝子の発現上昇が認められた。このことから、マスピンの過剰発現が、細胞外基質の成熟を促すような働きを持つことが示唆された。しかし、14日目では細胞外基質中のTGF-beta量はマスピン過剰発現細胞株とコントロール株で、変化はなくなり、マスピンの過剰発現の影響は早期の培養段階に現れ、培養細胞が成熟してくる頃には、マスピンはコントロール株でも十分量発現されていることが予想された。そこで、今後は、マスピンの発現を低下させることで、細胞外基質中のTGF-beta量に及ぼす影響、細胞外基質の成熟に及ぼす影響を検討していく予定である。
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