研究概要 |
口腔癌の分子標的治療において効率のよいDrug delivery systemは,副作用の軽減のみならず,治療効果の増強につながる。また,その標的分子については日々,機能解析され報告されている。代表研究者は,新規p53ターゲットとして,p53R2およびp53AIP1に注目し,それぞれのRNA interference (RNAi)法を行い,舌癌由来細胞株5種類の細胞特性変化の評価を行った。しかしながら,p53R2のノックダウンによりp53AIP1の発現増強がみられる場合とそうでない場合が存在し,それを規定する因子を明らかにすることはできなかった。 そこで,癌細胞の浸潤および転移に密接に関係している分子に着目してみることにした。EpCAMは,細胞間接着に関与する分子であり,大腸癌,乳癌をはじめとするさまざまな癌において過剰発現していることが知られており,とくに癌細胞の浸潤および転移に関与していることが報告されている。 舌扁平上皮癌におけるEpCAM発現を免疫組織化学的染色で検索し,臨床病理学的因子との相関性について検討した結果,T分類,頸部所属リンパ節転移,組織学的分化度および浸潤パターンと相関性があることが分かった。さらに細胞接着に重要な役割を果たしているβ-catenin経路に着目し,癌培養細胞を用いて,EpCAMをRNAiでノックダウンし,β-cateninの細胞内局在について検索した。結果としては,EpCAMをRNAiで発現抑制すると,明らかに癌細胞の浸潤能が低下し,細胞骨格におけるβ-ceteninの発現が増強した。さらにRNAi処理後72時間で最大約37%の細胞増殖抑制効果が認められた。 EpCAMは,舌扁平上皮癌細胞においてβ-catenin経路を介して癌細胞浸潤に関与していることが示唆され,EpCAM発現抑制が舌扁平上皮癌の分子標的治療に有効であると考えられた。
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