研究概要 |
近年,神経因性疼痛の治療に遭遇するが極めて難治性である.本研究の目的は、本病態について最近の進歩である神経とglia系の連関が細胞障害やその再生にどのような役割を果たしているのか解明すること、また、その科学的知見を基盤に、臨床応用可能な方法を確立することである。本年度は以下のことを検討し、成果が得られた。すなわち、研究結果から、末梢-中枢知覚神経系のシグナル変調,とくに脊髄神経可塑性の関与が強く指摘されその変調にgliaの修飾作用が密接にかかわることも判明した。したがって、傷害された脊髄細胞の再生能をいかに高めるかが治療の重要な課題とされる.また主たる機構とされる脊髄の神経可塑性の機構をより詳細にした。実験成果を包括的に述べると以下のことが判明した。 1.脊髄の神経可塑性における化学的・形態的伝達変調: (1)坐骨神経損傷後、比較的早期に脊髄グルタメートが過剰に放出されることが引き金となり、WDRニューロンの興奮、細胞応答(過敏症発現)が起きる。 (2)脊髄表層細胞でc-fos蛋白誘導およびアポトーシスが発現する (3)抑制性介在ニューロンが遅発生に傷害される、 (4)発症初期にはmicrogliaが脊髄表層で増加し、シナプス伝達効率を高めている可能性がある。 (5)慢性的神経過敏状態では、脆弱細胞群の存在があり、近傍のastrocyteが増加すること明らかと成った。 2.可能な治療法の試み; (1)脊髄髄腔内TNF-a注入や末梢4methylcatechol投与で痛覚過敏が起き、その作用はそれぞれ抗TNF-a、抗NGF投与で軽減しうること、(2)坐骨神経損傷部への磁気刺激(交感神経刺激および知覚神経細胞の賦活、分化誘導効果)が痛覚過敏を軽減し、その作用は局所抗NGF投与で軽減されたが、N型Ca channel阻害では変化しなかった。 以上から、神経因性疼痛は、抹消交感神経活性および脊髄での一連の生化学的反応に加え、今回glia細胞の神経活動への修飾作用も明らかとなり、これらの活性をいかに抑えるか、すでに報告も散見されるが、本研究からも詳細にすることができた。さらに、慢性期における治療では、磁気刺激や栄養因子とマクロファージ、グリアなど、細胞外マトリックスの修復過程における関与が判明し、それを如何に適切に誘導するかさらに検討している。今後、bFGFや,BDNFの安定した注入方法、細胞移植における免疫抑制の問題を改善することなど、臨床応用に向けさらに今後の重要な課題である。
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