腺様嚢胞癌は唾液腺原発の腫瘍で口腔領域の癌腫では扁平上皮癌に次いで頻度が高く、きわめて緩徐な発育と著明な浸潤性増殖を示す悪性腫瘍である。病理組織学的所見としてPerzinらは腫瘍構造を管状型、篩状型、充実型に分けているが、一つの腫瘍内に様々な組織型がみられたり、それぞれの移行型がみられたりすることも多い。これまで、組織型と臨床病態との関連性については、充実型を含む症例では予後不良とするものが多数報告されているが、関連性がないと報告されているものもあり、組織型の臨床的意義については不明な点が多い。本研究の目的は腺様嚢胞癌の組織型による相違を病理組織学的、免疫組織化学的、分子生物学的に検索をおこない、組織型と臨床的病態について解明することである。口腔癌では、多数のヌードマウス可移植株が樹立され、浸潤・転移像などのメカニズムの解明が進められている。しかしながら腺様嚢胞癌では腫瘍増殖が緩慢なため、移植株として樹立された系は非常に少ない。われわれは、現在、口底部原発の腺様嚢胞癌患者の摘出片をヌードマウス皮下に移植し、継代可能な移植株の樹立に成功している。継代が進むにつれ腫瘍増殖速度は増加し、15代目で初代ヌードマウス移植腫瘍に比べて約5倍となり、病理組織学的に初代移植時に篩状型であった腫瘍の約30%が充実型に移行している所見が認められている。また、それに伴ってPCNA、Ki-67、p53、bel-2の各LIは徐々に増加し、蛋白レベルにおいてはbcl-2が増加していた。まだ、TUNEL法にて継代依存的にアポトーシスの減少がみられた。これらのことから、継代による腺様嚢胞癌移植株の増殖や組織学的変化にはアポトーシスの減少が関与していることをすでに第49回日本口腔外科学会総会および第6回アジア顎顔面外科学会総会において報告している。そこで本研究では、腺様嚢胞癌の組織型についての臨床病態の相違を遺伝子レベルで解明したいと考えている。 その結果二次元電気泳動で腺様嚢胞癌のタンパク発現プロファイリングを行ったところ6種類の特異的発現を検出した。そのうち強発現したstathminとmaspinについて臨床材料を含めウエスタンブロット法と免役染色を行った。正常唾液腺に比べstathminとmaspinは癌で強発現した。また、組織型では篩状型より充実型で強発現であった。現在転移モデルでの検討を行っている。
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