顎顔面非対称症例は顎顔面の構成要素である頭蓋、顎骨、歯槽部、歯列の相対的な三次元的位置関係のずれ、あるいは構成要素単独の三次元的変形によって生じている。歯科矯正学分野においては顎顔面非対称症例の治療にあたり、外科手術を併用した矯正治療と矯正治療単独のボーダー症例の治療方針の選択が非常に難しい。したがって、治療方針あるいは手術方法に直結した顎顔面非対称症例のパターンを設計する上でも、顎顔面形態の正確な三次元的評価が必要不可欠である。本年度は、昨年度開発したシステムを臨床応用し、矯正治療で直接変化させることが可能な歯列-歯槽部の三次元形態を症例の歯列模型を用いてシステムの検証と形態の分析を行った。 新潟大学医歯学総合病院において、外科的矯正治療を行った顎顔面非対称症例のうち歯列-歯槽骨の補償的変形が著しかった症例の初診時下顎歯列模型を資料として用いた。三次元スキャナーを用いて模型をスキャンし、今年度購入したパーソナルコンピュータに入力し、開発したシステムにより特徴点を抽出し分析を行った。 その結果、偏位側の臼歯部の咬頭頂付近は大きく内側に位置し、頬側の歯頚点においてもその影響が認められるが、歯頚点から2mm以上下方になると歯の水平的な変位の影響はほとんど認められない。一方、舌側では歯頚点付近では偏位の水平的影響をほとんど受けない代わりに垂直的な影響が認められ歯頚部および歯槽部のラインが下方に位置していた。 本研究により、実際の症例においても歯列一歯槽部形態の全体的な解析が可能であり、また、断面形状上の特徴点を抽出して三次元的に再構成することにより、歯列の補償的変形を客観的かつ連続的に捕らえることが可能であることが検証できた。また、歯頚点から2mm以上下方の点において歯の変位の影響を受けないことから、菌槽部パラメータの補足方法の有用性が示唆された。
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