顎運動および咀嚼機能の低下は脳内の記憶などの機能への影響のみならず、鎮痛制御にも影響を与えると考えられ、歯科矯正臨床では咬合の再構築する意義として大変重要である。そこで、本研究は成熟ラットに対して、軟らかい餌を与え、顎機能を低下させた状態における、顎顔面炎症中の疼痛の発現や疼痛の制御を最初に解明することとした。まず、8週齢のウイスター系雄性ラットを軟らかい餌で10日間飼育し、フロイドアジュバンド液をオトガイの皮下に注入し炎症惹起させた。その3日後、脳内の神経活動のマーカーであるc-Fosの発現を免疫組織化学染色手法を用いて調べた。その結果、通常の餌により飼育されたラットと比較し、軟らかい餌で飼育されたラットでは、顔面疼痛の侵害刺激情報が一次ニューロンから中枢への投射する領域の一つである三叉神経脊髄路核尾側核にc-Fosの有意な増加が認められた。ついで、一次ニューロンの細胞体である三叉神経節の疼痛マーカーであるVR1の発現を調べたところ、C線維中のVR1細胞の割合が、軟らかい餌で飼育されたラットでは増加していた。また、疼痛伝達のみならず制御について検索するため、疼痛制御に関連するセロトニンの三叉神経脊髄路核に分布する受容体の働きを抑制する拮抗薬および促進する作動薬を投与したところ、作動薬、拮抗薬ともVR1の発現が減少した。また、拮抗薬の投与した場合のみc-Fosの発現が減少した。これらのことから、咀嚼の低下は疼痛感覚の軽減の阻害する可能性があると思われ、その仕組みは複雑な機構であることが推察された。
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