研究概要 |
(1)歯原性上皮細胞における糖脂質の発現のパターンの解析 生後6日齢のラット切歯のapical bud由来の歯原性上皮細胞株より糖脂質を抽出,精製し,薄層クロマトグラフィーにて発現パターンを解析した。その結果,本細胞株ではLacCerおよびGM3,Gb4が検出された。 (2)歯原性上皮細胞の増殖分化における糖脂質の役割について すでに我々は,歯の発生の初期段階において,GD3合成酵素遺伝子が上皮に特異的に発現し,細胞増殖に重要であることを報告している(Arch Oral Biol.2005.50:393-399)。したがって,本研究では,GD3合成酵素の基質となるGM3およびその前駆物質LacCerに着目して,これら糖脂質の細胞の増殖能および分化能に与える影響について解析した。増殖能をBrdU incorporation assayによって判定した結果,GM3およびLacCerを外来性に添加することで,細胞の増殖能の軽度の低下が認められた。一方,分化能については,歯特異的タンパクの遺伝子の発現強度をRT-PCR法によって解析したところ,アメロブラスチン,エナメリン,DSPPといった遺伝子の発現増強が顕著に認められた。 (3)歯原性上皮細胞のシグナル伝達における糖脂質の役割について 歯の発生の初期段階の上皮部分での特異的な発現を報告されている神経栄養因子NT-4について,(2)と同様に,GM3およびLacCerを培地中に添加して培養し、糖脂質プロファイルを変化させた後,その刺激の有無でMAPKのリン酸化の程度に変化が生じるかどうか解析を行った。その結果,GM3およびLacCerを添加して培養した歯原性細胞では,MAPKのリン酸化が増強して現れていた。また,糖脂質の影響を排除する目的で,d-PDMPを培地中に加えて培養した細胞では,MAPKのリン酸化の減弱が認められた。 (4)歯原性上皮細胞の増殖分化における神経栄養因子NT-4の影響 (2)と同様に,歯原性上皮細胞に対し,NT-4で刺激した場合の増殖能,分化能について解析した。増殖能に関しては,NT-4刺激の有無で増殖能は有意な変化を示さなかった。しかしながら,分化マーカーとして用いた歯特異的タンパクの遺伝子発現は,NT-4刺激後有意に増強されていた。さらにGM3およびLacCerを培地中に添加して培養した後,NT-4の刺激を加えることで,分化マーカーの発現は,糖脂質またはNT-4単独の場合よりさらに増強されていた。
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