研究概要 |
精神身体的状態が顎顔面部における圧痛閾値測定結果に及ぼす影響についての検討 【研究目的】当科では顎関節症などの口腔顔面痛を有する患者の治療・管理を行っており、その中で重要な検査項目に、顎顔面領域の筋の触診がある。しかしながら、筋の触診の再現性には多くの技術的な問題があるだけでなく、患者個人の精神身体的状態の影響も少なからず関与しているものと思われる。そこで今回、健常成人に対し、精神身体的状態を2種類の心理テストで測定し、さらに再現性を可能な限り向上させた圧痛計を用いて、茎状突起部に対する圧痛閾値測定を行い、精神身体的状態が顎顔面部における圧痛閾値測定結果に及ぼす影響について調査した。【対象と方法】被験者は健常成人20名(男性10名と女性10名;平均年齢26.3±2.5歳)である。被験者に対し同時刻から2種類の心理テスト(STAI,POMS)を実施し、引き続き疼痛感受性の高い部位とされている左右側の茎状突起部に対し、各5回ずっ圧痛計にて圧痛閾値を測定した。得られた心理テストの各項目の尺度と各被験者の圧痛閾値の変動係数(CV値)との相関を検討した。【結果と考察】茎状突起部における圧痛閾値のCV値とSTAI,POMSの計5つの項目の尺度に有意な正の相関が見られた。本研究結果から、口腔顔面痛を有する患者においても精神身体的状態の影響を受けて、筋の触診などの検査結果にばらつきが出る、つまり誤った検査結果を導き出してしまう可能性があることが示唆された。口腔顔面痛を有する患者が心理テストなどにより精神的な問題があると疑われた場合、我々歯科医がまず行うべき対応は、可逆的で侵襲が少ない治療法を選択することであり、口腔顔面痛が長期化する場合、信頼性に乏しい検査結果に惑わされて不可逆的な治療を選択してしまうことは、精神症状の複雑化を招く恐れがある点からも絶対に避けるべきであり、精神科や心療内科との対診が望まれる。以上の結果と考察は思春期における摂食障害(拒食・過食症)者への歯科における臨床的対応にも応用できうるものと考えられる。
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