研究概要 |
われわれは、顔面非対称を有する顎変形症症例に対してエックス線CTスキャンからの顎顔面骨格情報と三次元スキャナからの歯列情報を融合した顎矯正手術シミュレーションを臨床応用している。本研究の目的は、本シミュレーション法の精度を検証し、その科学的根拠を明確にすることである。昨年は、各情報を取得する際の顎位を開口位に変更し、その顎位でレファレンススプリントを作製することで、精度の向上を図り一定の成果を得ることができた。そこで今回、本シミュレーションにおける骨片移動について,我々が行っている方法(Computer aided repositioning法:CAR法)と従来法における骨片の位置再現性について検討を行った。 検証方法は、顎変形症手術を受けた患者のうち本シミュレーション法を適応した資料を用いて以下に示す順で行った。1)CAR法による骨片移動:スプリントに貼付したレファレンスマーカーを基準に,エックス線CTから得た骨格形態の情報(VS)と三次元スキャナから得た術前の咬合状態の情報(VD1)を融合し,術前の顎顔面形態(VP1)を求め,これに術後の咬合状態の情報(VD2)を融合し,術後の顎顔面形態をシミュレートしたVP2-Aを求めた。2)従来の骨片移動:5年以上の臨床経験を有する歯科医師10人それぞれがVP1の歯冠形態を指標に遠位骨片を移動させ,術後の顎顔面形態をシミュレートしたVP2-Bを求めた。3)再現性の評価:骨片移動に先立ちあらかじめ設定した計測点の三次元座標(x,y,z)からVP2-AとVP2-Bの再現性について評価した。 AR法で得られたVP2-Aの座標計測値は、きわめて高い再現性を有し、従来法で得られたVP2-Bの座標計測値と比較して、統計学的に有意な差を示した。以上のことより、複数のモダリティから得られた情報を融合し、骨片移動のシミュレーションを行うことにより、きわめて高い再現性を有する予知的な治療計画の立案が可能となった。
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