本研究は咀嚼運動および咀嚼時の感覚入力の変化が咀嚼時の感覚を支配する三叉神経中脳路核(以下Vmes)ニューロンに対して何か影響を与えるのか、与えるとすればどのような変化がおきるのかを明らかにするために立案・計画した。咀嚼運動の変化や過大な感覚入力がブラキシズムや顎関節症といった口腔疾患の原因になっている可能性は以前から示唆されていた。しかし、これらの変化を受けたVmesニューロンが具体的にどのような変化を受けているのかを示した報告は非常に少ない。Vmesニューロンは主に咀嚼筋の筋紡錘感覚と歯根膜の圧感覚を支配しており、これらの異なる部位の感覚を支配するニューロンが集合して核群を形成している。このためVmesニューロン細胞体を組織学的に検討する際には検討するVmesニューロンがどの部位を支配しているのかを明確に識別する必要がある。特に歯根膜に分布するVmesニューロンを逆行性に染色した報告は非常に少ないため、歯根膜からVmesニューロンを逆行性に染色する方法について適否を検討した。逆行性の染色に特性を持ち、各種条件を満たす神経トレーサーの選択を行い、デキストラン・テトラメチルローダミンとデキストラン・ローダミンBについて検討を行った。その結果、歯根膜から逆行性に細胞体まで神経トレーサーを取り込ませることは可能であり、デキストラン・ローダミンBの方が逆行性の染色に優れているということが示唆された。しかし、細胞体に取り込まれる確度は低く、その方法について検討が必要だと考えられた。次に咀嚼筋筋紡錘についても同様の傾向が示されるのかを検討するために咬筋筋紡錘からデキストラン・テトラメチルローダミンとデキストラン・ローダミンBをそれぞれ逆行性に取り込ませ、染色されたニューロン細胞体について検討した。ここでもデキストラン・ローダミンBの方が逆行性の染色に優れていることが示唆された。
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