近年、健康志向の高まりや健康に対する価値観の複雑化などに伴い、口臭を主訴とする患者が急増しており、歯科診療においてもこのような患者に満足をもたらすことができる技術の向上が求められている。口臭レベルの判定には、古くから口腔内に発生する揮発性硫化物濃度(VSC)の測定が用いられているが、症例によってはVSCが高くても人の嗅覚による官能試験では口臭をそれほど強く感じない例も少なくないため、VSCのみで口臭の有無や性質を判断することには限界がある。本研究では、人では識別が難しい軽微なにおいの変化も的確に検知することで食品や香料などのにおいの品質管理に用いられている高感度酸化物半導体においセンサーを口臭の分析に応用して、新しい口臭の診断基準を確立することを目的としている。 高感度酸化物半導体においセンサーでは、VSCを含む9種類の基準臭気物質を悪臭の指標として用いている。においセンサーは口臭の指標として最も重要視されているVSCとの関連が強く、従来から行われている口臭の指標としてVSC測定値を用いる方法が妥当性の高い方法であることが確認された。しかし、口腔内の臭気物質はVSCだけではないために、口臭の有無の診断に用いる官能試験とVSC測定値、においセンサーの結果を総合して分析したところ、においセンサーと官能試験との関連はVSC測定値と官能試験との関連とは異なる傾向を示していたが、それぞれに関連性の違いに関する明確な解析結果を得るには至っていない。 今後の研究の方向性としては、官能試験の結果に影響を及ぼすVSC以外のにおいセンサーの特性の分析を進めるとともに、においセンサーに影響を及ぼすVSC以外の臭気物質の特定についても検討していく予定である。
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