本研究の目的は、感覚(視覚、聴覚、嗅覚)環境を調整した中で呼吸法を行うことによってリラックス感が高まることを検証することである。 本年度は、A病院を受診した外来患者51名を対象として行った。場所は、カーペットが敷かれ、ソファとテーブルが設置された外来部門の相談室を使用した。視覚的な環境の調整として、単なる観葉植物ではなく、季節感を感じてもらうため、季節の草花や樹木の花を配置した。また、室内の壁面には、その季節に応じた自然環境の写真を配置した。聴覚環境の調整としては、CDプレーヤーを用いヒーリング音楽を流した。嗅覚環境の調整としては、ラベンダー等の精油をフットランプに滴下して室内に拡散させた。この環境の中で、呼吸法を行い、実施前後に血圧、脈拍、リラックス度、唾液中のアミラーゼ濃度を測定した。実施する呼吸法は、呼気を吸気の2倍の長さで行う腹式呼吸とした。 対象者の平均年齢は47.8±13.2歳、男性5名、女性46名であり、いずれもリラクセーション技法としての呼吸法の体験は初めてであった。収縮期血圧は、実施前122.7mmHgから実施後116.5mmgへ低下し有意な差があることを認めた。拡張期血圧はわずかな低下であった。脈拍は82.8回/分から77.7回/分へ低下し有意差を認めた。リラックス度は16.0点から22.2点に上昇し有意差を認めた。唾液中のアミラーゼ濃度は、わずかに低下したが有意な差は見出せなかった。また、「季節の植物があると気持が落ち着く」「香りが心地よい」「自然な音楽でリラックスできる」などの環境が心地よいことを示す意見も聞かれた。 以上から、感覚環境を調整した中での呼吸法の実施は、リラックス感を高める可能性があると考えられる。
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