研究概要 |
看護師が職場において心的外傷を体験している、この外傷反応の回復を左右する因子の1つとして共感性と外傷後の認知が指摘されている.本研究は,持続群と回復群における外傷後認知,共感性を比較検討した.方法は,2県の病院に勤務する看護師(准看護師,助産師を含む) 782名を対象に,1週間の留め置き法による無記名の自己記入式質問紙調査を実施した.結果は,有効回答者592名(男性5名,女性587名)のうち,なんらかの心的外傷を体験している看護師は33J名(55.91%)で平均年齢は36.26±9.81歳であった.職場でなんらかの心的外傷を体験しており,外傷体験「直後」のIES-R得点が25点以上,「現在」のIES-R得点が25点未満である回復群は50名,25点以上である持続群は251名であった.収集された301名の自由記述について,直接外傷体験の体験内容および体験率は,「医師からの暴言や非援助的態度」(24.4%)等全体で17カテゴリーが抽出され,目撃外傷体験の体験内容および体験率は,「患者・患児の悲惨な状態」(27.1%)等全体で13カテゴリーが抽出された.聞く外傷体験の内容および体験率については,「患者の自殺」(50.0%)等計3カテゴリーが抽出された.部署別の体験内容は,救急,ホスピス・緩和ケア病棟,産婦人科,小児科,内科系・外科系の外来・病棟で分析した結果,産婦人科と小児科のみ目的外傷体験者が多く,その他は直接外傷体験者が多かった.また産婦人科,小児科は妊婦・産婦・ベビー,患児の悲惨な状況の目撃が最も心的外傷になりやすく,他の部署では上司や同僚,患者や家族からの暴言や暴行による心的外傷体験者が多かった.目撃・聞く外傷体験者における回復群と持続群の共感性は,共感性は,共感経験と共感不全経験得点を中央値で両向型,共有型,両貧型,不全型に分類した.分析対象者91名において共感の各類型4要因について比較し,x^2検定を行った.統計解析には, SPSS Ver.l2.0Jを用い,有意水準を5%とした.両向型は31名(維持群27名,回復群4名),共有型は17名(維持群14名,回復群3名),両貧型は19名(維持群15名,回復群4名),不全型は24名(維持群20名,回復群15名)であった.またx^2検定を行った結果,どの共感の類型においても有意差はみらず(x^2=0.59, df=3,p<.05),共感の類型は心的外傷反応の推移には関連がなかった.外傷後認知においては,広義の心的外傷経験者で高い心的外傷反応を維持している看護師は,「出来事に関係する,自己否定的な認知」「世界に関する否定的な認知」「出来事に無関係の,自己の否定的な認知」「世間に関する否定的な認知」が強いことが明らかになった.IES-Rの総合得点,各下位尺度について維持群と回復群との比較検討を行った結果,維持群は回復群と比較して有意差が認められた.このことから,高い心的外傷的反応を保持している維持群は,回復する看護師と比較して認知が変化することで心的外傷反応の推移に違いがあることが示された.
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