研究者のこれまでの研究結果から、地域で生活をしている身体的ADLが自立している高齢者の転倒発生には、視知覚と姿勢制御の関連性が示唆されている。転倒発生における身体的要因としては筋力とバランス能力が大きく関与していることは多くの研究者から報告されている。この2つの要因に視知覚を追加し、さらに下肢筋力との関連性を重ね合わせることで、転倒の身体的要因の明確化をねらい、転倒予防対策への足がかりを作ることが本研究の性格である。ヒトが二足立位歩行を始めたときから、転倒という現象に向き合うことが余儀なくされ、それとともに下肢筋力とバランス能力の強化が要求されることになった。しかし、これまで地域看護学領域では機材の簡易化、安全性、再現性、精度管理などの問題から地域に研究者が出向いての下肢筋力の測定は不可能とされ、下肢筋力と相関の高い握力測定などで代用されてきた。近年、人間工学やリハビリテーション医学の発達等により、安全で簡易で再現性の高い客観データが取得できる測定装置の開発が進んできた。本研究では、この簡易の下肢筋力測定装置を用い、地域で生活をしている身体的ADLが自立している高齢者を対象に、視知覚、姿勢制御、下肢筋力の3要素を含ませた調査を実施し、その3要素の関連性を具体化させる。昨年は少人数の若年者を対象に、データの客観性、安全性、再現性について確認をおこなった。これを基に今年度は地域の少人数の高齢者を対象にデータの確認をおこなった。分析結果から、視覚的刺激が強く、かつ下肢筋力が低値であるほど姿勢制御は不安定(重心動揺が大きくなる)になる傾向が認められた。このことから視知覚は姿勢制御と下肢筋力を有意に関連があることが伺えた。次年度は対象となる高齢者数を増やした調査を実施する予定である。
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