研究概要 |
平成17年度は,軽度発達障害児をもつ母親の育児の困難さおよび子育てに関するニーズを明らかにすること,また海外での支援の実際を知るため,下記1,2を実施した。 1.海外視察 オーストラリア・クィーンズランド大学心理学部教授らにより開発され,国の子育て施策として展開されている発達障害児の親を対象としたペアレンティング・プログラムに関するワークショップに参加した。 プログラムは認知行動療法がベースになっており,親が児の問題行動をポジティブに認知するようになること,プログラムで紹介される26の子育てスキルを親が工夫して用い,子どもと良質の関係をつくること,問題行動に対処できるようになることで,親の自己効力感や自信を高めていくことをねらいとしている。このように親が障害児の子育てに必要な知識とスキルを系統立てて学ぶプログラムは,日本ではまだ普及されていないため,次年度はプログラムの実施およびその内容について,母親のニーズを量的に調査していく。 2.母親を対象とした子育てに関する質的研究 W県に在住する高機能広汎性発達障害児の母親9名を対象に,乳幼児期の子育てについて,約1時間〜1.5時間のインタビュー調査を実施し,質的帰納的分析を行った。 結果,母親は児に障害があったことに自責の念をもちながら,児のこだわりの強さや母親とのコミュニケーションの困難さから,いつか自分が児を虐待してしまうのではないかという不安を感じ子育てを行っていた。児の障害が告知されることは,母親にとって重大な危機的状況であったが,診断されない曖昧な状況から診断名が明らかになることにより,母親は児の障害について学習し,児の成長を促すための具体的な関わりや適切な療育環境をつくろうと前向きに行動していった。母親が障害を理解,前向きに捉えられるようになる要因として,夫の理解と協力,同じ障害児をもつ母親の存在,保健師,保育士,医師等の専門職の支えがあった。特に乳児期から児をみている保健師への母親の期待は大きく,子どもとのかかわり方,母親の話の傾聴,子育てや進路選択における相談相手,社会資源に関する情報提供,児および母親と他職種のコーディネート等の役割を求めていることが明らかとなった。
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