研究課題/領域番号 |
17F16402
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
渡邊 裕純 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80323757)
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研究分担者 |
YADAV ISHWAR 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 農薬流出 / 予測モデル / 降雨流出 / 農薬 / ネオニコチノイド |
研究実績の概要 |
本年度研究の人工降雨装置を用いた畑地からの農薬の流亡と農薬消長モニタリングでは,東京農工大学付属農場での圃場スケールの散水式降雨流出装置による農薬の降雨流出試験および農薬残留モニタリングを行った。農薬はイミダクロプリドを原体とするアドマイヤーフロアブルとクロチアニジンを原体とするダントツ水溶剤を一緒に慣行量散布した。両薬剤ともネオニコチノイド系殺虫剤である。7日後の9月2日に人工降雨装置による降雨試験を行った。降雨強度は70mm/hrで行い,降雨時間は表面流出発生後60分行った。サンプリングは10分間隔で行った。2回目の降雨流出試験は9月9日に同様に行った。流出水中の農薬は液―液抽出法により,流亡土壌中の農薬は,QuEChERS 法にて抽出を行い,それぞれのサンプルはHPLCを用いて分析された。 表面流出中の農薬濃度に関しては,イミダクロプリドとクロチアニジンの1回目の降雨流出試験の流亡土壌中の最高濃度はそれぞれ8.23mg/kgと5.72mg/kgで,2回目の降雨流出試験での最高濃度は,それぞれ2.18mg/kgと1.71mg/kgであった。同様に,イミダクロプリドとクロチアニジンの流出水中の最高濃度はそれぞれ89.7μg/Lと26μg/Lであった。人工降雨装置を使用した農薬の圃場からの流出は,水溶解度と土壌吸着係数がクロチアニジンよりそれぞれ約2倍高いイミダクロプリドが,表面流出に伴う農薬流亡も高くなる傾向にあった。上記の結果は日本農薬学会第43回大会にて報告予定である モデル構築に関しては,SPECモデルを基本にまず予測精度向上のための多層化を行った。個の多層化を行うことにより,土壌表層とそれ以下の下層の農薬の残留の再現が可能となった。次に,平成29年度データを用い,表面流出の予測プロセスのモデル化を行った。降雨流出水と表層土壌中の物質収支を基にモデル化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中で順調に進展している項目は,人工降雨装置を用いた圃場実験である。理由としては,70㎜/hr降雨,5%傾斜を豪雨シナリオを設定した。豪雨シナリオにおける除草剤を用いた圃場スケール降雨流出試験において,流出水量および流出土壌量の解析,サンプル中のネオニコチノイド系供試農薬の農薬濃度の分析,検出状況及び農薬流出特性を確認することができた。表面流出中に伴う農薬の流亡に関して,土壌吸着した流亡土壌による一回目の降雨流出試験の農薬の流亡が,散布量に対してイミダクロプリドが5.9%,クロチアニジンが4.6%を占めており,表面流出水の流出はイミダクロプリドが2.1%,クロチアニジンが0.9%を占めており2回目の降雨流出試験でも値は低いが同様の傾向であった。 今年度の成果の一部を国際誌の査読付き論文に1報投稿し,平成30年5月に開催の日本農薬学会第43回大会にて報告する予定である。このように,人工降雨装置を用いた農薬の降雨流出試験に関しては,順調な進捗である。 表面流出および農薬流亡の予測プロセスのモデル化に関しては,今回基本モデルとなるSPECモデルの多層化のプロセスの構築を行った。これにより土壌中の濃度予測の場合の土壌層の設定の自由度が改善された。表面流出の予測プロセスのモデル構築の部分は,地表水流出の部分は降雨流出予測においては,米国の農務省が開発したSCSカーブナンバー法を適用し,また地表水の浸透に関してはGreen-Ampt式を用いてモデル化を行った。一方農薬流出に関しては,混合層物質収支モデルを適用する。これらの手法を用い,農薬の降雨流出予測モデルを構築し,畑土壌農薬動態予測モデル(SPEC)と結合する。このようにモデル構築の部分に関しては,研究エフォートを増やし対応して行く必要があるかと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主目的は,降雨流出予測モデルを構築し,畑土壌からの農薬流亡のリスク評価および農薬流出管理手法の提案である。本研究では,今後の推進方策は以下の2つである。 1. 圃場試験による農薬の畑地からの降雨流出と農薬動態モニタリング:当初からの変更点として,大学側の都合により圃場スケール(1mx5mプロット)の人工降雨装置を使用する実験圃場が使用不可能になった。このため,学内の他の圃場を借用し移動式小型降雨流出試験装置(33cm x 48cm)を用いた圃場試験により農薬の降雨流出および残留農薬モニタリングを行こととした。本モニタリング試験では,草地緩衝帯と活性炭(バイオチャー)の農薬流出抑制効果について調査を行う。それぞれの試験区では,降雨流出後10分ごとにサンプリングを行い,水試料と土壌試料について農薬抽出を経てHPLCで分析を行う。 2. 農薬の降雨流出評価モデルの構築・検証および適正農薬流出管理手法の提案:前年度に得られたデータを用い,SPECモデルを基本として,農薬の降雨流出プロセスの数理モデル化を継続し,完成させる。農薬の降雨流出プロセスは,土壌表層中の農薬の物質収支を用い表現し,農薬流出ピーク,農薬流出状況のモニタリング結果を基に数理モデルの検証を行う。次に2017年度の気象条件,水分や乾燥密度などの基本土壌条件を基本シナリオに使用し,農薬の降雨流出状況のシミュレーションを行い,2017年度のモニタリング結果を用いて農薬の降雨流出モデルの評価・検証を行う。次に草地緩衝帯処理区,および活性炭処理区でのモデルシミュレーションを行う。両処理区の農薬流出抑制効果を評価し,これらの結果を適正農薬流出管理手法として提案する。
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