本研究の目的は、11世紀のチベットで活躍したゴク・ロデンシェーラブや,チャパ・チューキセンゲの論理学文献を精査し,基礎的な概念規定を明確化することにより,初期チベット仏教論理学思想の理解の足がかりを作ることである. 【定例研究会】外国人特別研究員・崔境眞氏は,当受入研究者と共に研究会を実施し,ゴク・ロデンシェーラブ『量決択註難語釈』およびチャパ・チューキセンゲ『量決択註』の原典校訂および和訳を作成した. 【研究成果の発表】研究成果の一部を2017年9月2日開催の第68回日本印度学仏教学会(花園大学)で発表し,2018年3月に学術論文「ゴク翻訳官の『難語釈』における決知(yongs su gcod byed)」として公開した.さらに,2018年9月3日~9月7日にサンクト・ペテルブルク大学で開催されたThe 5th Conference of the International Seminar of Young Tibetologistsにおいて,Dharmottara and rNgog Lo-tsa-ba’s Understanding of Determination (zhen pa) by Perceptionと題する発表を行った。これらにおいて明らかにしたゴク・ロデンシェーラブの見解は,チベット仏教論理学史の中で展開される「正しい認識(プラマーナ)の定義」を巡る議論の出発点となったと思われ,本研究課題全体の中で大きな意味を持つものである. 【そのほかの研究活動】崔氏はオーストリア・科学アカデミーアジア文化思想史研究所,筑波大学,九州大学などで開催される研究会にて情報収集と研究活動を精力的に行ない,関連分野の研究者と有意義な意見交換を行った.さらに,国内のチベット研究者を集め,ワークショップを開催した(「チベット学の現在と未来」2018年7月30日~8月1日、広島大学).
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