研究課題/領域番号 |
17F17029
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 尚 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (10251406)
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研究分担者 |
MARTINEAU PATRICK 東京大学, 先端科学技術研究センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-10-13 – 2020-03-31
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キーワード | 北大西洋振動 / 偏西風 / 傾圧構造 / エネルギー変換 / 熱輸送 |
研究実績の概要 |
H29年度にMartineau博士は,北米・大西洋・欧州域において最も卓越する季節内気圧変動の10年規模変調分布,並びにそれと相関する背景循環の長期変動場の特定に成功した.現在,この成果を論文にまとめつつある.H30年度はそれと並行して,上記卓越変動の実体である「北大西洋振動」に伴う大規模な大気循環偏差の維持過程について,最新の長期観測データ(大気再解析データ)に基づき,再検証を行った結果,従来とは異なる斬新な解釈を得た.即ち,北大西洋振動に伴う循環偏差は,僅かではあるが上空ほど南西に傾く傾圧構造を有すること,及びこの構造により循環偏差が有効に熱輸送を行うことが明らかとなった.北大西洋振動は北大西洋上空を北東に流れる偏西風ジェット気流の変動として現れる.北大西洋振動に伴う熱輸送は背景のジェット気流を横切る強い気温勾配を緩和させようとすることで,その気温勾配に伴うジェット気流の有効位置エネルギーを循環偏差へと変換し,効率的に循環偏差を維持させる働きがあることを明らかにした.即ち,北東向きのジェット気流が平年より強まる正位相のときには,北側の低気圧性偏差の南西縁にある寒気偏差が,北西風偏差によって強化される北米大陸上から寒気移流により一層強化されようとする.その一方,北東向きのジェット気流が弱まる負位相の際には,北側の高気圧性偏差の南西縁にある暖気偏差が,南西風偏差によって弱まる北米大陸上からの寒気移流により一層強化されようとする.北大西洋振動についての初の厳密なエネルギー収支解析から,上記の有効位置エネルギー変換が月平均偏差に伴う(運動エネルギーも含めた)全エネルギーを数日のうちに回復させるほどに効率的で,最も重要な維持過程であることを初めて定量的に見出した.これは,多くの大気科学者・気候学者が着目する北大西洋振動の維持過程の本質を捉えた画期的な成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Martineau博士は,カナダ東部・欧州の気温変動の長期的強弱が熱帯大西洋の長期水温変動による積雲対流活動の長期変調に強制される上空の偏西風の長期変動によりもたらされるという重要な示唆を,既に複数の国際会議で発表しており,論文化の作業も開始している.加えて,多くの大気科学者・気候学者が着目する北大西洋振動について,その傾圧構造を初めて指摘し,それに伴う熱輸送が背景のジェット気流から停滞性循環偏差へと有効位置エネルギーを極めて効率的に変換できるという,北大西洋振動の維持過程の本質を捉えた画期的な成果を得て,今後早急に論文化を図る予定である.
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今後の研究の推進方策 |
H29・H30年度に長期大気再解析データの解析から得た2つの重要な解析を取り纏め,早急に2編の論文の執筆を進めるとともに,海外の学会で成果を発表する.さらには複数の大気大循環モデル(AGCM)実験データに同様な解析の適用を引き続き進める.具体的には,気象研究所が中心となって作成した大気循環の巨大アンサンブル実験データ(d4PDF)への適用である.温室効果気体の人為的な増加を加味した実験とそうでない実験,それぞれ別個に上記の解析を適用することで,注目すべき地域でのブロッキングに伴う偏西風の蛇行の頻度が,温暖化の進行とともにどれほど影響を受けるかを確率密度分布の変化から定量的に評価する.
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