研究課題/領域番号 |
17F17031
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
武藤 鉄司 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (70212248)
|
研究分担者 |
WANG JUNHUI 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2017-10-13 – 2020-03-31
|
キーワード | デルタ / 分流チャネル / 河川流量 / 堆積物供給量 / オート層序学 / 平衡河川 / 大陸棚 |
研究実績の概要 |
下流側から作用する海水準フォーシングと上流側から作用する堆積物供給フォーシングは河川デルタの堆積層序構造を支配する二大要因である。これら二大フォーシングの統合的かつ複合的な層序機能をモデル実験の手法で解明する。実験には長崎大学環境科学部の堆積実験水槽マルジ系を使用する。
平成29年度(2017年8月~2018年3月)は、本実験研究のセットアップと対照を兼ねて、条件一定を基本とする2種類の実験シリーズを実行した。一つは、水流量(= 河川流量)・給砂量(= 土砂供給量)・水槽内水位(= 海水準、堆積盆水深)のいずれも不変とした。水槽内水位をラン毎に替えたところ、水槽内水位が大きいほど、分流チャネルは平衡状態に近づき、側方移動とアバルジョンを生じにくくなり、安定化する。この知見を2018年1月に米国学術誌へ投稿した(査読中)。 もう一つは,水流量・堆積物供給量を固定したうえで、水槽内水位を所定の周期・振幅のもとで上下変動を繰り返す条件を採用した。これは多サイクル海水準変動のもとでのデルタ性大陸棚の成長を調べることでもある。周期・振幅をラン毎に替えたところ、いずれの場合も、サイクル進行に伴って水位上昇期には非デルタ性の急激な海進による無堆積面が広がり、下降期にオートジェニックな平衡河川が実現しやすくなることが明らかになった(投稿論文準備中)。 これらの実験研究に加えて、河川流量・土砂供給量、海水準下降速度一定のもとで成長した天然河川デルタの実例として、完新世メコン河デルタに関する既存の文献をレビューしたところ、このデルタがオートジェニックな平衡河川系によって発達した(もしくはその途上にあった)ことが判明した。これは地層記録から平衡河川が検出された初めての事例である。この知見を平成30年3月の日本堆積学会秋田大会で発表するとともに、同年4月に米国学術誌へ投稿した(再々投稿、査読中)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始(研究員の来日、平成29年8月1日)から研究計画を精力的に進めたことにより、当初想定していたよりもかなり早いペースで研究成果が現れつつある。得られた研究成果に基づく共著論文をすでに2編投稿中 (Wang、Muto、Urata、Naruse; Wang、Tamura、 Muto)であり,近日中に3編目(Wang、Muto)を投稿できる見通しである。
なお、特別研究員奨励費が使用できるようになったのが平成29年11月で、データ解析に使用するデスクトップコンピュータ(Windows機、特注)を購入できたのも同月であった。遅いタイミングではあったが、これと同時に実験データの解析に必要なソフトウェア(Agisoft PhotoScan、Matlabo) が使用可能になり、解析作業を短い時間で終えることができた。一方、当初の計画では、水流量を特定の時系列パターンで変動させることを想定していたが、この操作の実行に必要なローラーポンプ新機種が欠品状態(11月発注時のメーカー側回答)にあり、1月中旬の納品となった。このため、水流量を変動させる条件設定は平成30年度に実施することとし、代わりに水槽内水位(= 海水準)を所定のパターンで変動させる実験を先に行うこととした(水流量と給砂量は一定)。この代替実験で予想以上の重要な成果が得られたことにより、今後の実験研究の方向性が定まった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後(平成30年4月~平成31年7月)は、静止堆積盆水位(= 停滞海水準)のもとで水流量と給砂量を所定のパターンで時間的に変化させる条件、さらに堆積盆水位も周期的に変動(= 多サイクル海水準変動)させる条件のもとで、それぞれ実験シリーズを計画し、実施する。
給砂量の時間的変動を容易にするため、ダイヤル式電磁振動式粉体フィーダを早期に購入する。平成29年度に購入したローラーポンプと併用することで、多様な気候変動条件を模することができる。一連の実験で得られる成果をもとに、堆積物供給フォーシングに対する河川デルタ堆積系の応答についての理解を開拓していきたい。研究成果の学会発表を積極的に行うとともに、投稿論文の執筆を効率よく進めることを心掛けたい。研究期間終了までにトータルで10編の論文を生産することを目指す。
なお、研究分担者は在職する母国研究機関での昇進手続きと担当授業のために、平成30年度後半に1ヶ月以上の不在とならざるを得ない。このことを踏まえた上で、実験作業(研究代表者のもとでしかできない)をできるだけ早い時期に完了させることとし、本国帰国中は論文執筆を進められるように実験日程を調整したいと考えている。
|