肺の末端組織である肺胞は物質輸送を司る主要組織であり,呼吸時において各肺胞ごとに収縮拡張の様子が異なり,物質輸送が各肺胞で異なることが考えられる.さらには喫煙者と健常者の肺の収縮拡張も異なっていることが報告されており,肺胞表面での物質輸送は喫煙者と健常者で異なることが考えられる.肺胞表面での物質輸送の違いを検討するうえで,物質輸送の中心である肺胞組織に着目し,特に肺胞上皮細胞および内皮細胞の物質輸送能が肺胞環境を変化させた場合にどのような影響を受けるかに関して実験的に明らかにすることを第一の目的とする.さらには上皮細胞および内皮細胞の力学特性を実験的に計測し力学環境による変形能の違いを計測することを第二の目的とし,ミクロからマクロまでを含む肺組織計算モデルを構築することで,健常者と喫煙者の肺胞表面での物質輸送能の違いがどのようなメカニズムで生じるかを明らかにすることを最終的な目的とする. 平成30年度は,肺組織のミクロレベルでの計測を試みた.肺胞を構成する肺胞上皮細胞の力学特性を調べるための実験装置を構築し,引張刺激を負荷すると肺胞上皮細胞内の小胞輸送機能および細胞骨格が変化することがわかったが,論文投稿に至るまでの十分なデータを取得するこはできなかった. 一方で,蛍光ビーズを埋め混んだシリコンゲルを作製し,内皮細胞を培養した.内皮細胞内にPKCα-GFPを遺伝子導入し,PKCαの生化学応答を取得した.レーザー照射により計測対象細胞の隣接細胞を死滅させ,細胞間接着を乖離させ,細胞間接着乖離前後の蛍光ビーズの変位量から,細胞が接着している足場のひずみ量を計測し,PKCαの変化量と細胞の足場のひずみ量を比較した. PKCαは死滅した細胞の隣接細胞内(計測対象細胞)で,死滅細胞側に集積し,PKCαが集積する部位はひずみ量が大きい部分であることが明らかとなった.
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