本研究は、Cuの自然酸化により見出された巨大スピンホール効果を足掛かりに、金属へテロ構造における電流からスピン流への変換とこれに伴い現れるスピン軌道トルクの制御手法確立を目指すものである。本研究により、Cuにおいて初めて見出された酸化によるスピン軌道トルク効率の増大は、スピン軌道相互作用の弱い金属に限らず、既に顕著なスピンホール効果を示し、スピン軌道トルク源として既に多くの研究が進められてきたPtにおいても発現することを明らかにした。強磁性金属に対して数桁抵抗率の大きいPt酸化物を用いても巨大なスピン軌道トルクが生成されることを見出し、これを用いて酸化物絶縁体/強磁性金属/酸化物絶縁体という構造における電流誘起磁化反転を実現した。本研究の重要な点は、絶縁性のスピン軌道トルク源により、スピン軌道トルクからバルクスピン軌道相互作用からの寄与を完全に排除した、純粋に界面スピン軌道相互作用によるスピン軌道トルク生成を定量することが初めて可能となったことである。また、Au/強磁性金属構造において生成されるスピン軌道トルクが極薄膜領域のみにおいて強い膜厚依存性を示すことを見出した。超薄膜化により発現するスピン流変換は、Au表面あるいは界面のスピン軌道相互作用によるものであると考え、イオン液体によるAu超薄膜へのキャリアドーピング効果を調べた。この結果、Auに流れた電流が作るスピン軌道トルクは、イオン液体による正負のゲーティングによって可逆的に変化し、その変化量はゲート電圧に比例することが明らかになった。これまで金属系のスピン軌道トルクを外部から制御することは困難であり、高々数%の変化しか実現されていなかった。しかし、今回の研究によって、1Vの電圧印加によりスピン軌道トルク効率を50%変化させられることが明らかになった。
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