研究課題/領域番号 |
17F17072
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平川 一彦 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10183097)
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研究分担者 |
TANG CHIU-CHUN 東京大学, 生産技術研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 単一分子トランジスタ / フラーレン / ナノギャップ電極 / テラヘルツ分光 |
研究実績の概要 |
化学的に合成される分子は、様々な優れた機能を持つことが知られている。特に、単一分子に金属電極でコンタクトした単一分子トランジスタ構造では、電子軌道、電子数、スピン、分子振動などが量子化され、それらの物理量を用いて新しいエレクトロニクスの可能性が拓けると考えられている。これまで、単一分子の特性は、その電流-電圧特性を測定することにより、静的な特性が調べられてきたが、単一分子のデバイス応用には、伝導ダイナミクスを明らかにすることが不可欠である。また、単一分子中には非常に少数の電子スピン、核スピンしか存在せず、それらの量子状態を制御して、新しい機能を発現させることも重要である。本年度は、以下のような成果が挙がった。 1)単一分子トランジスタの作製に当たり、金属ナノコンタクト上に分子を溶かした溶液を塗布するが、基板表面の極性の有無や分子の極性の有無により、最適な溶媒が異なることを見いだした。特に本年度主に研究したCe@C82分子の場合、分子も基板も極性を持つためエタノールを溶媒とすることで、格段に作製歩留まりが上がることを見いだした。 2)ナノギャップ電電極の作製のため、通電断線を行うに当たり、回路の直列抵抗の値を一定値以下にすることで通電断線の安定性が増すことを見いだした。 3)内部に電気的モーメントを有するCe@C82分子では、電圧印加によりナノギャップ内部でCe@C82分子が回転することを見いだした。さらに、その回転角には準安定状態が4つ存在すること、大きく抵抗が変化するときにはナノギャップ電極内部で分子が約70°回転することなどを見いだした。 4)テラヘルツ分光に向けた試料や測定系の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学振特別研究員であるTang氏は、来日前は単一分子トランジスタ作製に関する経験は全く持っていなかったが、同氏は努力して急速に実験のレベルを非常に高めたことは高く評価できる。また、異方性を持った分子が、電圧印加時にナノギャップ中で回転する効果は以前から知られていたが、精密な実験により準安定状態が4つ存在すること等を見つけたのは、Tang氏の独創性の高いところである。これにより、実験開始から1年で権威ある論文誌に投稿できるレベルに高めたことは非常に評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、単一分子トランジスタのダイナミクスと応用に関する研究に展開する予定であり、以下のような計画をしている。 1)金属内包フラーレン分子に強磁性電極でコンタクトを取った単一分子トランジスタで、Ce原子の磁気モーメントを使った特異な抵抗制御ができないか検討する。 2)核磁気モーメントを持った単一原子を内包する分子に対して、抵抗検出型のNMR測定が可能かどうか検討する。もしこれが成功すれば、単一原子の磁気モーメントを用いた量子ビットが実現できる。 3)テラヘルツ電磁波を照射し、単一分子や内包されている原子の超高速ダイナミクスを明らかにする。
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