化学的に合成される分子は、様々な優れた機能を持つことが知られている。特に、単一分子に金属電極でコンタクトした単一分子トランジスタ構造では、電子軌道、電子数、スピン、分子振動などが量子化され、それらの物理量を用いて新しいエレクトロニクスの可能性が拓けると考えられている。これまで、単一分子の特性は、その電流-電圧特性を測定することにより、静的な特性が調べられてきたが、単一分子のデバイス応用には、伝導ダイナミクスを明らかにすることが不可欠である。また、単一分子中には非常に少数の電子スピン、核スピンしか存在せず、それらの量子状態を制御して、新しい機能を発現させることも重要である。本年度は、以下のような研究を行った。 1)内部に電気的モーメントを有するCe@C82分子では、電圧印加によりナノギャップ内部でCe@C82分子が回転することが知られていたが、その位置には準安定状態が複数存在し、その数がソース・ドレイン電圧の増大とともに減少することがわかった(低バイアスでは4準位、高バイアスでは2準位)。ただ、準安定状態間で分子が何度回転するのかの見積もりに関しては議論の余地があることがわかった。この成果に関して、権威ある国際会議(半導体物理に関する国際会議;ICPS)にて講演を行った。 2)2つの波長可変半導体レーザの差周波を高速フォトダイオードを用いてテラヘルツ電磁波に変換する系を用いて、波長可変テラヘルツ光源を準備し、テラヘルツ分光を行う系の立ち上げを行い、100 GHz近傍に単一分子トランジスタの整流効果による信号を観測した。 3)単一分子のNMR検出を目指して、東北大学平山研究室と議論を行うとともに、測定する分子の候補としてSc3N@C80分子を購入した。 4)韓国DGISTとの共同研究で、Dirac半金属ナノワイヤーの低温における磁気伝導の測定を行った。
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