乳酸菌が生産する抗菌ペプチドであるバクテリオシンは、一般のタンパク質と同様にリボソーム上で合成される抗菌ペプチドで、安全な抗菌物質として食品保存をはじめとする様々な分野での利用が期待されている。近年では、バクテリオシンをはじめとする抗菌ペプチドが、種々の病原細菌や多剤耐性菌に対抗しうる、従来型の抗生物質に変わる次世代型の抗菌物質としての期待も集めている。これまでに多様な乳酸菌バクテリオシンが見出され、我々もN末端とC末端がペプチド結合した環状バクテリオシンやリーダーペプチドを伴わずに生合成されるリーダーレスバクテリオシンのように特徴的な構造を有するものを多数見出してきた。なかでも、新奇環状バクテリオシンであるenterocin NKR-5-3B、および新奇リーダーレスバクテリオシンであるlacticin Qについて、それらの生合成機構を利用してバクテリオシンに改変を加えることで、抗菌活性の向上や抗菌スペクトルの改変を図り、多剤耐性菌等の標的細菌への抗菌作用の強化を試みた。 両バクテリオシンをコードする遺伝子の変異による改変体の創出に適した異種発現系を構築し、これを用いて抗菌活性との相関が強いと予想された領域に変異を導入し、両バクテリオシンの改変体ライブラリーを構築した。得られた多数の改変体について、その構造の確認を行うとともに、種々の細菌に対する抗菌活性を評価したところ、両バクテリオシンとも、その構造中のαへリックスの末端および近傍に位置するアミノ酸残基が抗菌活性に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。本研究室では、他にも環状バクテリオシンをはじめとする多くの新奇バクテリオシンを見出しており、今後、これらの成果をさらに展開・活用することで、多剤耐性菌への活性を強化した新たなバクテリオシン改変体の構築が期待できる。
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