研究課題/領域番号 |
17F17320
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 直紀 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90377961)
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研究分担者 |
HARTWIG TILMAN 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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キーワード | 星形成 / 銀河天文学 / 重元素の起源 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、銀河系の古い星々の分光観測および軌道解析の結果を用いて、宇宙初期の銀河形成と化学進化の過程を明らかにすることである。H29年度は、N体シミュレーションの出力から作り出した銀河の合体成長史(マージャーヒストリー)に、星形成、超新星爆発および重元素汚染の準解析モデルを適用し、天の川銀河系内の低金属量ハロー星の金属量分布を再現するとともに、元素含有量の特徴から第二世代星を見つけ出す方法を考案した。特に、鉄、炭素、マグネシウムに着目し、その含有量比をあらわす二次元平面上で「化学組成変化量勾配」という概念を導入し、たった1回の超新星爆発により重元素が生成された確率、すなわち当該星が真に第二世代の星である確率を定義、計算した。次に、エネルギーの低い超新星爆発モデルなど、最近の観測でその兆候がしめされた特異なモデルに関してもその元素合成・放出量を解析モデルにとりいれた。これまでの低金属量星分光観測結果をこの平面上で比べることで即時に第二世代星候補を抽出でき、今後の系統的な探索に大きく貢献できる。 この成果をまとめた論文はMNRAS誌に受諾され, 2018年6月に出版される予定である。H29年度は成果発表も精力的に行った。2017年11月にプラト(イタリア)にて開催された国際研究集会での初期構造形成についての招待講演をはじめとして、メルボルン(オーストリア)、呉(日本)で口頭発表を行った。 H30年度にはこれまでに探索した第二世代星選択法を、ToPosサーベイなど実際の観測データに適用し、第二世代星候補を抽出するとともに、それらに含まれる重元素を生み出した超新星のタイプなどを推定する。次に、国立天文台のスーパーコンピュータを使用して超新星残骸進化の流体力学シミュレーションを実行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究員Hartwig氏が訪日する以前から検討していた研究を、外国人特別研究員として着任後に集中的にすすめた。第二世代星の探索手法を具体的に提案するとともに、近年すすめられているToPosサーベイの観測結果と直接比較することも可能になり、研究期間内に目標に向かって着実に成果があがると期待できる。また、国際学会での成果発表を通して国内外の研究者、研究グループとの共同研究が発展しており、当初計画にはなかった新たな成果も見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
はじめに、近年すすめられている低金属量探査のためのToPosサーベイの観測結果に、これまでに考案した第二世代星探索法を直接比較することが最重要である。鉄の含有量と超新星爆発モデルを組み合わせた従来の手法と比較し、その精度や適用範囲をあきらかにする。ここまでの結果は、早期星形成および銀河形成の準解析モデルに基づいているが、これには多くの現象論的パラメータが含まれる。なかでも重要なのは、星間ガス内での重元素汚染の効率を表す混合パラメータである。関連して、重元素汚染の広がりもより正確に求めなくてはならない。このため、現実的な宇宙論的設定のもとで3次元流体シミュレーションを行い、大質量星の内部で合成された重元素が超新星残骸の中でどの程度効率よく混合されるかを直接導出する。爆発エネルギーや周辺ガス密度を様々に変えた計算を多数行い、これまでに構築した解析モデルに取り入れるための理論テンプレートを作る。この大規模シミュレーションのための計算資源は確保済みであり、本計算は国立天文台のスーパーコンピューター上で行い、結果は研究室のデータ解析用PCで解析する。 この研究のため、ドイツおよび英国の共同研究者と相互訪問し、研究議論および論文執筆を集中的に行う。また、H30年度後半には東京大学で銀河考古学に関する研究会を開催する予定であり、海外著名研究者を含む第一線の研究者らと成果を発表、共有する。
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