研究課題/領域番号 |
17F17323
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大西 明 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (70250412)
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研究分担者 |
BENIC SANJIN 京都大学, 基礎物理学研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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キーワード | 高エネルギー陽子原子核衝突 / 光子生成 / カラーグラス凝縮 / シングルスピン非対称(SSA) / 深部非弾性衝突(DIS) / Balitsky-Kovchegov方程式 |
研究実績の概要 |
まずは光子を含む横偏極陽子のシングルスピン非対称(SSA)について研究を行った。原子核と陽子の衝突を考え、原子核から放出される実光子と横偏極した陽子の衝突(ultraperipheral collisions、UPC)におけるSSAを計算した。これは深部非弾性衝突(DIS)のSSAにおいて光子のvirtualityがゼロの極限をとることで計算でき、この極限を注意深く取り、すべての量が有限になることを確認した。得られた結果の数値計算には最新のtransversity distributionとツイスト3の破砕関数を用いた。結果、正負両方の電荷を持つパイ中間子のSSAが、陽子陽子衝突の場合に比べて符号が逆転するという現象を発見した。この予言はRHICにおいて実験的に確認することができる。これらの結果を論文にまとめてPhysical Review Dに投稿し、アクセプトされた。 また、最近測定された陽子と原子核のSSAにおける原子核の質量数依存性について研究を開始した。この質量数依存性は2つの実験グループからのデータで相反しているように見えており、その機構の解明が待たれる。この研究ではカラーグラス凝縮効果を通じて質量依存性を取り入れ、SSAの計算結果をRHICのSTAR、PHENIXコラボレーションの結果と比較した。得られた結果を論文に投稿した。 この他にもLHCでの陽子・陽子衝突からの光子生成反応におけるグルーオン分布効果についての研究を進めており、論文をPhysics Letters Bに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光子を含む過程のシングルスピン非対称については共同研究が順調に進み、2018年6月に論文を発表、Physical Review Dに投稿した(外国人特別研究員(研究分担者)の着任は前年の11月)。多少レフェリーと揉めたが無事に掲載された。2018年4月には神戸で行われた国際会議DIS2018に参加し、そこでRHICのPHENIXコラボレーションによる陽子原子核衝突に関する最新結果を知った。結果はSSAが原子核の質量数Aに関してA^{-1/3}のように抑制されるという驚くべきものであり、STARコラボレーションによる同様の実験の結果と相反するように見えた。その後外国人特別研究員らはPHENIXコラボレーションからこの観測量について理論計算を行うことを打診され、急遽この問題に取り組むことになった。Balitsky-Kovchegov方程式の数値解を用いて原子核内のグルオン飽和の効果を取り入れ、SSAの計算を行ったところ、STARの実験結果はおおむね再現できたが、PHENIXの結果は再現できなかった。結果をまとめてPhysical Review Dに投稿した。さらに台湾Academia SinicaのHsiang-nan Li教授と共同研究を新たに開始し、摂動の2ループで現れる新しいSSAへの寄与を現在計算している。このように本研究課題は当初の予定より速く展開し、当初には想定していなかった新しい2つの新しいテーマに取り組んでおり、順調である。
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今後の研究の推進方策 |
Li教授との共同研究を完成させる。Semi-inclusive DIS (SIDIS)を考え、摂動の2ループで現れる新しいSSAを計算する。このためにまずはすべての2ループダイアグラム(数十個)を一つ一つ吟味し、SSAに寄与するダイアグラムを選定する。それらのダイアグラムがQED,QCD両方のWard-Takahashi恒等式を満たすかどうかをチェックする。満たさない場合はゲージ対称性が失われており、発散がキャンセルしていないため、このチェックは極めて重要である。さらに得られた結果を数値的に評価し、これまでに知られている他のSSAの寄与との比較を行う。得られた結果を論文にまとめて雑誌に投稿する。
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