研究課題/領域番号 |
17F17332
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 嘉夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10304396)
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研究分担者 |
QIN HAIBO 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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キーワード | エアロゾル / XAFS分析 / 地球寒冷化 |
研究実績の概要 |
本研究では、硫酸エアロゾルなど、大気中に存在する強酸の生成過程について研究を進めており、2018年度は主に、環境中に存在する過塩素酸に関する研究を進めた。通常、環境中の過塩素酸は、大気中の紫外線の影響で塩化物が酸化を受けて生成する。硝酸も同様のプロセスで生成すると考えられているため、多くの研究で環境中の硝酸イオンと過塩素酸イオンの濃度比は類似している。本研究では、火星の表層環境のアナログとしても注目される砂漠中の過塩素酸について研究を進めた。特に中国・タクラマカン砂漠周辺の砂漠の砂、河川堆積物、氷河堆積物などについて、過塩素酸濃度、塩化物や硝酸イオンとの濃度比、およびX線吸収微細構造(XAFS)法による塩素化学種の同定を行った。その結果、上記の試料のうち、砂漠砂試料や河川堆積物に比べて、氷河堆積物中で過塩素酸の絶対濃度および硝酸塩に対する過塩素酸の比が著しく高いことが分かった。タクラマカン砂漠は、世界の他の砂漠と比べて毎年100 mm程度の降雨があり、過塩素酸が沈着しても容易に溶解し還元する可能性があるため、アタカマ砂漠などと比べて砂漠中の濃度が低い原因として、こうした降雨が考えられる。そのため、火星表層環境などでの過塩素酸の存在は、長い期間、強い乾燥状態が維持されてきたことを示唆する。一方、氷河堆積物試料中で過塩素酸濃度が高く、特に硝酸塩に対する比が高いことは、大気中での紫外線による生成過程以外に、別の過塩素酸の生成プロセスがあることを示す。氷床中にトラップされていた線化物が紫外線により酸化されるプロセスが報告されているが、氷河堆積物中の過塩素酸の存在は、このようなプロセスにより生成した可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、当初の大気中の硫酸の研究に加えて、過塩素酸に関する研究を進めた。この研究は非常に新規性が高く、特に大気中の紫外線による酸化以外にも過塩素酸の生成過程があることが示唆される結果が得られたため、火星の表層環境のアナログとしても重要で、本研究の進展が大いに期待される。
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今後の研究の推進方策 |
過塩素酸の環境中での生成プロセスについて、さらに研究を進める。特に実際の氷床を昇華させて生成するエアロゾル成分について、XAFS分析などを行うことで、過塩素酸の同定と、硝酸に対する比を調べる。その結果により、過塩素酸の生成プロセスとして、大気中の紫外線による増加以外に、氷床中の生成過程があることを示せる可能性がある。またXAFS法の適用により、過塩素酸の対陽イオンを明らかにする。特に溶解度の低いカリウム塩が主要であれば、過塩素酸の生成にカリウムの存在が重要であることを示すことができる。
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