研究課題
貧酸素水塊は生態系や水産資源に深刻な被害をもたらす環境問題であるが,そのモニタリング・発生予測・メカニズムの理解などは十分だとは言えず,従来のフィールド調査や環境モニタリングでは限界がある・本研究は付加成長する二枚貝,特に東京湾のムラサキイガイに着目し,その殻に記録された貧酸素水塊による環境変化を微量元素組成や安定同位体組成などを分析する事により過去にさかのぼって経時的に復元する事で,貧酸素水塊の新たな研究手法を確立する事を目的としている.平成31年度は,ムラサキイガイの殻のネオジム同位体比分析による地理的起源判別法の開発を行った.日本各地及び中国から採取したムラサキイガイのネオジム同位体比を分析し,採取地点の地質学的特徴と比較することでその有用性を検証した.その結果,古い大陸地殻からなる中国から採取した個体のネオジム同位体比は日本のものと比較して非常に低い値を示すことがわかった.さらに,岩手県から茨城県の太平洋沿岸域にて南北に密な間隔で採取した個体の組成は,東北の地質の変化と明瞭に対応した値を示すことがわかった.これらの結果から,貝殻中のネオジム同位体比は地理的起源判別に有用な手法であることが示された.また,ムラサキイガイの微小領域の元素分布に基づく元素変動メカニズムに関する研究も実施した.東京湾で採取されたムラサキイガイ殻の元素組成を分析し,それにより得られた微量領域元素分布と微細殻構造の比較を行うことで,元素変動メカニズムについて議論した.その結果,マグネシウム/カルシウム比の主たる変動要因は水温ではないこと,潮汐によって形成される微細成長パターンと元素組成が良い対応を見せること,それよりさらに細かいスケールの微細殻構造と関係した元素変動パターンが見られることなどを明らかにした.
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2020 2019
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