研究実績の概要 |
本研究計画の目的は、(1)化学反応における電子動力学の時間分解電子運動量分光研究、および(2)化学反応における原子核運動の動力学の時間分解原子運動量分光研究の二つの研究課題の推進である。 (1)に関しては、研究代表者らが世界に先駆けて測定した時間分解電子運動量分光データ[M. Yamazaki et al., Phys. Rev. Lett.,114, 103005 (2015)]に痕跡として残るアセトン分子の光誘起三体逐次解離反応の超高超高速電子ダイナミクスを分子軌道の形状に関する実験と理論との比較研究を通して抽出するため、購入した計6台のパソコンを並列計算システムとして整備し、非断熱化学動力学トラジェクトリ―計算を開始した。具体的には、当該反応に関与するポテンシャル曲面をCAS(8,7)-3singlet-3triplet/6-31+G**レベルの高精度で構築し、電子緩和や炭素原子間化学結合の切断を含む200個以上の波束トラジェクトリ―を得た。 一方、(2)に関しては、研究代表者らが有する世界に群を抜く超高感度の原子運動量分光装置[M. Yamazaki et al., Rev. Sci. Instrum. 88,063103(2017)]を用いて希ガス[Y. Yamazaki et al., J. Phys. B, 52, 065205 (2019]及び二原子分子を対象とした系統的実験を行い、本分光により分子振動波動関数の形状を運動量空間で直接観測できることを初めて実証することができた[Y. Tachibana et al., submitted]。この成果を踏まえて、化学反応における原子核運動の動力学研究を推進すべく、レーザー光ポンプ-高速電子線プローブの形式の時間分解原子運動量分光の開発を進めると共に、実験結果と比較するための理論の構築を進めている。
|