研究課題/領域番号 |
17F17339
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大須賀 篤弘 京都大学, 理学研究科, 教授 (80127886)
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研究分担者 |
BELLAMKONDA ADINARAYANA 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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キーワード | ポルフィリン / サブポルフィリン / ラジカル / ドナーアクセプター |
研究実績の概要 |
ポルフィリン・環拡張ポルフィリン・サブポルフィリンなどのポルフィリノイドが優れたラジカル安定化能力を持つことを明らかにしてきた。いずれも前駆体をPbO2で参加することによりラジカルを発生させることができる。ほとんどのメゾオキシラジカルは化学的に極めて安定であり、通常の閉殻有機分子のように取り扱うことができる。メゾーメゾ結合ポルフィリン二量体のメゾオキシラジカルは中心金属などによりその電子状態が変化し、フリーベースやニッケル錯体では、閉殻系分子となり非磁性な物性を示すが、亜鉛錯体では、亜鉛ポルフィリンが平面になるために、メゾーメゾの結合角がおおきくなり、結果として明瞭なジラジカルになることを明らかにした。さらに最近ではオキシラジカルに限らず、メゾ位に結合した炭素中心ラジカルやアミニルラジカル・ラジカルカチオンについても高いレベルで安定化が可能であることを見出した。ジポルフィリニルアミンをPbO2で酸化するとジポルフィリニルアミニルラジカルを合成することができ、このラジカルも極めて安定である。更にこのラジカルをマジックブルーで酸化すると対応するナイトレニウムカチオンが生成することを明らかにした。通常、ナイトレニウムカチオンは極めて電子不足であり、反応性が高いが、このジポルフィリニルナイトレニウムカチオンは極めて安定であり、水ともメタノールとも反応しない。ベンゼンの1,3,5位にアミニルラジカルを配したトリアミニルラジカルを亜鉛ポルフィリンに埋め込む形式で合成したところ、予想通りQuartetのハイスピん状態を取ることがわかったが極めて安定であった。このように、ポルフィリン安定ラジカルは、有望でその化学の発展性は非常に大きい。本研究では、サブポルフィリンやポルフィリンの周辺にジシアノメチルラジカル残基をもつ化学種を合成し、それらの安定性や反応性について調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
サブポルフィニルーメゾージシアノメチルラジカルやポルフィニルーメゾージシアノメチルラジカルの前駆体であるメゾージシアノメチル置換サブポルフィリンやメゾージシアノメチル置換ポルフィリンを芳香族求核置換反応により合成した。これらの前駆体をPbO2で酸化することにより、サブポルフィニルーメゾージシアノメチルラジカルやポルフィニルーメゾージシアノメチルラジカルを対応するにより発生させた。これらのラジカルは、いずれも極めて安定であり、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製単離できることがわかった。これらの安定ラジカルの結晶構造解析にも成功した。溶液中ばかりではなく、結晶固体中でもこれらのメゾージシアノメチルラジカルは、モノマーのラジカルとして存在することがわかった。これらの結果から、従来ジシアノメチルラジカルを安定することが知られている芳香族化合物よりも今回検討したサブポルフィリンやポルフィリンの方がラジカルモノマーを安定化する能力が高いことを明らかにした。サブポルフィリンメゾージシアノメチルラジカルの合成や物性については、論文として報告した(B. Adinarayana et al., Chem. Eur. J., 25, 1706-1710 (2019))。また、ポルフィニルーベータジシアノメチルラジカルは、結晶中では共有結合で二量化したダイマーであるが、溶液中では、モノマーとダイマーの平衡混合物として存在し、濃度を上げると二量体の量が増え、温度を下げるとやはり二量体の量が増えることを明らかにした。共有結合二量体の結晶構造を明らかにした。Covalent Dynamic Chemistryにかんよする共有結合が異様に長く、容易にラジカル開裂する物性につながっていることを見つけた。現在、論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ベータ位に二つのジシアノメチルラジカル残基を持つポルフィリンを合成し、それらのラジカルモノマーの化学的安定性やCovalent Dynamic Chemistryについて詳しく調べる予定である。ベータ位に一つのジシアノメチルラジカル残基を持つポルフィリンの場合、溶液中ではCovalent Dynamic Chemistryを示すが、固体中ではジシアノメチルラジカルで共有結合を生成した二量体生成をしめす。メゾ位の両隣のベータ位に二つのジシアノメチルラジカル残基を持つポルフィリンの場合、やはりCovalent Dynamic Chemistryを示すが、立体歪み効果により、ジシアノメチルラジカル残基ではなく、ポルフィリンのベータ位で二量化した全く前例のないバクテリオクロリン二量体が生成することを突き止めており、有望である。これら新規なクロリン二量体の構造を決定する予定である。また、Covalent Dynamic Chemistryの反応パラメーターをESRシグナル強度の温度依存性やSQUIDの磁性の温度依存性などから決める予定である。モノラジカル種や共有二量体については、固体中でどの程度の分子間相互作用がみられるか、SQUID測定やDFT計算によるスピン密度分布との照合を行う。また、反対側のベータ位にジシアノメチルラジカルを持つポルフィリンを合成し、それらの化合物のCovalent Dynamic Chemistryについて詳しく調べる。更に、本研究では、新規安定ポルフィリノイドラジカルとして、ポルフィニルジシアノメチルラジカルを開発しオリゴラジカルやポリラジカルに展開し、磁性材料としての可能性を探る。
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