レアメタルであるアンチモン(Sb)は工業的には有用である一方で、生物毒性があり要監視項目に定められている。Sbは第15族元素に属し、ヒ素と類似の環境動態を示すと推測されるが、溶存態有機物(DOM)やその他の環境要因がSbの水環境動態や生物毒性に及ぼす影響は良く分かっていない。本課題では、特にDOMとSbの錯体に着目し、DOM錯体分析に利用された事例は非常に少ない超高精度質量分析等を駆使することで、Sbに配位するDOMの分子組成(生物毒性にかかわる化学形態)を明らかにすることを目的とした。具体的には、本研究はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計によるDOM-Sb錯体の質量分析、質量分析データから分子組成を決定するアルゴリズム開発、Sbに配位するDOM分子の同定から構成された。特に、環境科学分野において未発達な技術である分子組成決定アルゴリズムの開発に重点を置き研究開発が進められた。本研究結果から、タンパク質-、アミノ糖-、炭水化物-様有機物にSbが特異的に結合していることが明らかとなった。水環境中でこのような有機物は微生物由来であることが多いため、Sbの多くは湖沼水や下水処理水などに含まれる微生物由来有機物と結合し、存在していることが示唆された。そして、タンパク質、アミノ糖、炭水化物などを分解可能な環境中における微生物のSb摂取が推測された。以上の成果は、Sb汚染水除去という工学的観点からは、藻類池などを設置することが有力であることも示している。
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