研究課題/領域番号 |
17F17396
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
江前 敏晴 筑波大学, 生命環境系, 教授 (40203640)
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研究分担者 |
LEE KANG 筑波大学, 生命環境系, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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キーワード | コウゾ / ドーサ / 加速劣化 / 文化財 / 日本画 / 掛け軸 / 保存科学 / 肌裏紙 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本画の掛け軸の構造を想定し、その画本に使用される和紙本紙と直接糊付けされる肌裏紙の間で生じる劣化因子の移動、さらには周囲環境との間の移動も考慮に入れた物質動態劣化機構を解明し、日本画の長期保存方法を確立することを目的とする。平成29年度においては、本紙と肌裏紙の複合試料をなるべく均一な条件で調製することに注力した。これは複雑な系の試料に対する各種分析において再現性のあるデータを得るために重要な工程である。まず、楮皮原料を入手し、煮熟剤を変えて実験室で抄紙した和紙の上にドーサ液(明礬+膠)と顔料(緑青)をそれぞれ塗布した本紙試料と、その裏面に新糊で肌裏紙を接着した複合試料を調製した。さらに各材料の濃度を変えた30種の試料を調製した。試料を懸垂法により湿熱劣化(80℃、65%rh、0週~12週)したほか、掛軸の収納環境に類似する形態として、チューブ法により加速劣化(80℃の密封条件、0週~12週)させた。異なる劣化機構を示す可能性を検討するために、紫外線照射法による光劣化(光源は紫外線カーボンアーク、0時間~144時間)も併せて行った。試料は全て加速劣化する前に予め調湿しておいた。 試料の物性試験はH30年度に行う予定であったが、前倒しで一部の測定を開始した。加速劣化後の試料に対して耐折強度、ゼロスパン引張強さ及び色の経時変化を測定をした。その他、物性試験を行う際の環境条件として、50%以外の相対湿度に設定できるよう、環境制御ブースを設置した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本紙と肌裏紙の複合試料の制作に関しては、日本画修理の専門家の協力を得て製作技法を習って条件を規格化し製作した。本紙(雲肌麻紙、宣紙及びワットマン紙)の上にドーサ液(明礬+膠)または、緑青顔料に代わるものとしてCuSO4水和物についてそれぞれ濃度を変えて塗布し、同一本紙の裏面に濃度を変えた新糊を塗布した肌裏紙(薄美濃紙)を接着して計30種類の試料を調製した。3種類の加速劣化方法として、懸垂法による湿熱劣化(80℃、65%rh、0週~6週)、チューブ法による加速劣化(80℃の密封条件、0週~6週)を行い、また、異なる劣化機構を示す可能性を検討するために、紫外線照射法による光劣化(光源は紫外線カーボンアーク、0時間~144時間)を行った。加速劣化後の試料に対して、耐折強度、ゼロスパン引張強さ及び色の経時的変化を測定した。 予定していた実験をほぼ終了した。予定していた実験のほとんどが試料の調製であり、種々の条件で調製した試料を揃えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、本紙の和紙のみの劣化問題だけではなく複合体としての日本画の保存性及び肌裏紙による裏打ち効果を評価するために、単一本紙と複合試料に対して物性や色などの経時的変化を比較する。また、本紙と肌裏紙の間の劣化因子の移動挙動を解明するために、複合試料の一部を用いて本紙と肌裏紙に剥離し、剥離した本紙と単一本紙、または剥離した肌裏紙をそれぞれ耐折強度及び重合度を経時的に測定して比較する。この結果を有機酸量、pH、酸化度の測定結果とも比較する。さらに、劣化因子の移動によって本紙と肌裏紙の付着程度に影響を及ぼすことが予想される。これは周期的に肌裏打ちを解体して新しく肌裏打ちを行う日本画の再修理工程において、肌裏打ち効果に影響を与える因子を推定する上で情報を得ることができる。このために複合試料に対して剥離強度を測定し、付着の程度の経時変化を比較する。
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