研究課題/領域番号 |
17F17396
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
江前 敏晴 筑波大学, 生命環境系, 教授 (40203640)
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研究分担者 |
LEE KANG 筑波大学, 生命環境系, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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キーワード | 日本画 / 銅イオン / 肌裏紙 / 膠 / 礬砂 / 劣化 |
研究実績の概要 |
日本画は「本紙」と呼ばれる画本そのものとそれを保護し装飾する「装丁」によって構成され、掛軸等の形態をとり鑑賞や保管にも優れる。日本画では本紙の上に滲み止めである礬砂を引き、顔料を 使って彩色し、さらに本紙を支えるためにその裏面に糊を用いて裏打紙を直接貼る作業が施される。しかし、使用材料の劣化、修理作業の不手際あるいは収納環境によっては、本紙自体の劣化とは別の機構で掛軸全体の経年劣化を急激に進行させることが予想される。日本画を長期保存する方法を確立することを目的に、画本となる本紙のみならず、それに接着する肌裏紙を一体化した複合体を単一の材料のように挙動すると捉えて劣化挙動を比較した。Cuイオンに浸漬した本紙はそれに接触する肌裏紙へCuイオンが拡散することにより肌裏紙の酸化反応が進行するため、単一の本紙より変色が相対的に小さい。これに膠を塗布した試料及び礬砂を塗布した試料の本紙は、膠による中和効果が働くため酸加水分解や酸化反応の発生及び肌裏紙への移動が抑制され、単一の本紙よりpHは低いが、同程度の変色を示す。また、肌裏打ちを行うことも本紙のpH低下の抑制に寄与し、単一の試料より物理強度の低下速度が小さくなるのは単に本紙を物理的に補強するだけではなく、劣化反応の進行を抑制するために化学的にもその保存性に寄与する。さらに、本紙と肌裏紙の間に介在する糊は本紙から肌裏紙への劣化反応の進行を物理的に抑制する。これらの結果から肌裏打ちを行うことは日本画全体の保存性向上に寄与する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cuイオンが劣化に与える影響や膠が劣化を食い止める現象を、当初の予想通りに証明する結果が順調に得られた。
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今後の研究の推進方策 |
日本画を構成する材料学的な要素のそれぞれの役割を総合して、日本画を保管するのによい環境や保存方法にについて提言ができるようなまとめを行う。
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