研究課題/領域番号 |
17F17401
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小川 幸春 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (00373126)
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研究分担者 |
KETNAWA SUNANTHA 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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キーワード | タンパク質 / ダイズ / 発酵 / アミノ酸 |
研究実績の概要 |
食品は摂食された後,口腔でその構造が破砕され,胃酸などの作用でスープ状となり,その結果,栄養成分のほぼ全量が腸管壁から吸収できるようになると考えられている.しかし特に植物系食品の場合,食品組織を構成する植物細胞はミクロンサイズであることから口腔や胃でのマクロな力学作用では完全に破砕することができない.それら細胞は難消化性の細胞壁で包まれているため,生化学的な人体での消化作用を受けても容易にスープ状とはならず多くの栄養成分が細胞組織内に残存する.食品に対する加工・調理操作は,それら残存成分の細胞組織からの乖離を促し,栄養成分の腸管壁からの吸収を高める作用を有する.特に加熱や発酵などの単位操作は,経験的には消化吸収を高めるための有効手段であると認識されている.このため消化段階において生理活性物質や機能性成分の食品組織からの乖離現象を検討することは,現実的な栄養素の消化吸収現象を把握するためにも極めて重要である.しかしその効果を定量的に検討した事例は見られない. 本研究は,植物系食品に対する加工・調理法やその操作条件が摂食後の消化段階における含有成分の食品組織からの溶出性に及ぼす影響を調査,検討する.H29年度は予備的な検討として,ダイズの発酵操作が含有タンパク質の溶出性,消化性に及ぼす影響を調査した.タンパク質の食品組織からの乖離・溶出性,消化時の分解性の検討にはSDS-PAGEによる分子量の分画手法を適用した.消化性の評価にはin vitroでの人工消化試験を適用した.実験の結果,浸漬,加熱,発酵と加工段階が進むとともに試料に含まれるタンパク質の分子量分布が低分子量側に移動した.またそれぞれの試料を人工消化した後ではさらに顕著に低分子量側への移動が確認された.本研究で検討した評価手法により,加工操作や消化によるタンパク質の分解現象を定量的に把握できることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,植物系食品に対する加工・調理法やその操作条件が,摂食・消化時における含有成分の生理活性や機能性に及ぼす影響を検討する.検討の手段として,in vitro系の実験手法による消化性評価法を適用する.H29年度は,研究対象の試料としてダイズを用い,加熱処理や発酵処理がダイズのタンパク質消化性に及ぼす影響を検討した.試料条件として,単純に浸漬吸水しただけのもの,吸水後に高圧加熱処理したもの(煮豆),および加熱処理後に発酵処理したもの(納豆)の各加工段階における状態のダイズを用いた.SDS-PAGEによりそれぞれの試料のタンパク質を分子量ごとに分画してその分布状態を調査した.またin vitroでの人工消化試験を適用してそれぞれの試料を消化処理し,同様にSDS-PAGEによってタンパク質の分解程度を検討した.その結果,浸漬,加熱,発酵と処理段階が進むとともに試料に含まれるタンパク質の分子量分布が低分子量側に移動した.またそれぞれの試料を人工消化した後ではさらに顕著に低分子量側への移動が確認された.以上の結果は分子量の大きなタンパク質が熱処理,発酵処理によって低分子のペプチドなどに分解されたことが原因であると考えられた.同様に消化過程での変化もペプシンによるタンパク質の分解作用により各種ペプチドやアミノ酸が生成した結果であると類推された.ペプチドやアミノ酸はある程度大きな抗酸化能を示す.このことから,各処理段階の試料が示す抗酸化能を調査した.その結果,加工処理が進むにしたがって,また消化段階が進むにつれて試料の抗酸化能は増加した. 以上の結果から,ダイズの加工処理が食品素材としての機能性向上を促すことが示された.また消化過程における変化は,新たな観点からの食品の機能性評価につながる可能性を示唆した.
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は,加工操作,消化過程で生じる各種ペプチドおよびアミノ酸の性質を調査,検討する.特に,抗酸化能や抗炎症作用など生理機能性の解明を目指す. ダイズタンパク質を分解した際の産物であるペプチドには,ACE阻害剤として機能するものもある.それらの機能に対する様々な加熱処理法の影響の確認とともに,タンパク質と複合的に化学結合している成分に対する影響なども検討する.それら成分を分析,評価するための試薬類を購入,使用する.また,発酵によって生成する様々な機能性成分,例えば納豆菌の生成物質であるナットウキナーゼなどタンパク質分解酵素類やポリグルタミン酸などの消化過程における変化も調査,検討する.このため,HPLC分析に用いるカラムなどを購入する.以上の研究成果を発表するため,国内外の学会に参加する.
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