食品は摂食された後,口腔でその構造が破砕され,胃酸などの作用でスープ状となり,その結果,栄養成分のほぼ全量が腸管壁から吸収できるようになると考えられている.しかし特に植物系食品の場合,食品組織を構成する植物細胞は難消化性の硬い細胞壁で包まれており,かつミクロンサイズでもあるため口腔や胃でのマクロな力学作用では完全に破砕することができない.またそれら難消化性の細胞壁が障壁となって細胞内に存在する栄養成分への消化酵素の生化学的到達性が低下するため容易にスープ状とはならず,腸管に送られてもある程度の量の栄養成分は細胞組織内に残存する可能性が高い.食品に対する加工・調理操作は,細胞組織からの栄養成分の溶脱性を高める作用を有する.それら操作条件による消化性変化の検討は,実質的な栄養素の消化吸収作用を把握する上でも重要である.特に加熱や発酵などの単位操作は,経験的には消化吸収を高めるための有効手段であると認識されている.このため消化段階において植物性食品が含有する生理活性物質や機能性成分の遊離現象を検討することは,現実的な栄養素の消化吸収現象を把握するためにも極めて重要である.本研究では,新たに開発した食品の模擬消化試験系を適用して植物系食品に対する加工・調理法やその操作条件が消化段階における含有成分の食品組織からの溶脱性に及ぼす影響を調査,検討した. 一例としてダイズの発酵処理が発酵後の抗酸化活性に及ぼす影響を調査したところ,発酵処理が進むにしたがって試料の抗酸化能は増加した.また得られた試料を模擬消化処理した場合,発酵処理がダイズのタンパク質を分解してペプチドおよびアミノ酸を生成するとともに,納豆を摂取した後の消化過程においてもペプチドやアミノ酸の生成が進み,特に抗酸化性や抗炎症性を有する成分の生成も多くなることが示された.
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