本研究は、担子菌の代謝工学的改質により、リグニンを初発原料としてピルビン酸を経由したエタノール発酵を可能にする担子菌を創出することにあります。初年度はリグニンモデル化合物を利用したバニリン酸や安息香酸の代謝経路に関する詳細な知見を得るため、その第一段階としてバニリン酸や安息香酸を炭素源とした培地で生育できるかどうかについての調査を実施しました。その際、同位体ラベルしたモデル化合物は高価であることから、まずは非ラベル性のバニリン酸および安息香酸を用いて生育実験を実施しました。本課題の主要な白色腐朽菌であるヒラタケを含む複数の担子菌を用いて生育実験を実施しましたが、いずれの菌においても明確な生育が観察されたことから、使用した担子菌類はいずれもバニリン酸や安息香酸を代謝できる可能性が示唆されました。また、実際にリグニンを初発原料とした変換系を考えた場合には、高分子リグニンモデル化合物が必要であることから、合成リグニンとしてDHPリグニンの調整を試み、効率的にDHPリグニンを合成することが可能となりました。一方、代謝工学的な改質を目指した取り組みに関しては、複数の担子菌について組換え系の構築を行い、担子菌に遺伝子を導入する系を確立することに成功しました。産休による中断期間を挟み、コンピュータを用いた生物学の統計学的分析手法であるバイオインフォマティクス解析により特化するため受け入れ教員を変更しました。ここでは、白色腐朽菌のリグニン代謝機構の解明に向けた網羅的遺伝子発現解析をR Studioを用い、バイオインフォマティクス解析を実施しました。 研究最終年度は2020年4月-7月であり、多くの時間をこれまでの研究成果の論文としてまとめる時間に費やしました。白色腐朽菌のリグニン代謝機構の解明に向けた網羅的遺伝子発現解析による知見をまとめ現在学術誌に投稿しています。
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