研究課題/領域番号 |
17F17407
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
宮本 明夫 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (10192767)
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研究分担者 |
MAREY MOHAMED 帯広畜産大学, 畜産学部, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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キーワード | ウシ / 子宮 / 卵管 / 精子 / 初期胚 / 免疫細胞 / 受胎性 |
研究実績の概要 |
本研究プロジェクトのゴール(大命題)は、「高泌乳牛の受胎性の向上」である。ウシの2大繁殖技術である「凍結精液による人工授精(AI)」、そして「子宮への受精卵移植(ET)」に関わる子宮・卵管の精子と受精卵の「受入れと排除」を制御する未知の母体免疫システムを解明することで、AIとET技術の改善に貢献する技術開発の展望を得ることを目的とする。平成30年度は、上述の2つの大命題のうち、第1の焦点である精子が子宮上皮細胞の炎症反応を誘導するメカニズムについて、確立していた子宮上皮細胞と精子の共培養系によって、特に炎症性反応の誘導メカニズムについて検討した。要点を列記すると、 1) (精子の作用)体内観察モデルと体外培養モデル:ウシ生体モデルで、人工授精によって凍結精液を子宮内注入した直後からの子宮内の免疫応答を、灌流カテーテルを活用して、いわゆる生体応答のマップを世界で初めて構築した。驚くことに、人工授精後1hで多くの精子はすでに子宮角を卵管に向けて通過しており、その時点で白血球の出現は皆無だった。さらに重要なことは、1h後にはすでに、子宮の強力なバックフローによって、膣内に多量の精子が排出されていたことである。6h後には子宮体、子宮角全てが白血球だらけであり、その時にはすでに精子はほとんど観察されなかった。これらの知見を基盤に、最終年度に子宮内環境の代謝系の解析を予定している。 2)、(初期胚の作用)体内観察モデル:受精卵移植モデルを活用し、受精卵回収の際のDay7の子宮還流によって採取された細胞群を、部分的に分離して、存在する免疫細胞の特徴を確定することを試みた。しかしながら、回収できる免疫細胞数が極めて少なく、それらの特性の検証はできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の計画の子宮上皮細胞と精子との免疫応答のメカニズムについて、生体モデルでの観察で初めて重要な部分が明らかになった。これは、外国人特別研究員本人が、以前に本研究室で博士課程留学生として研究していた経緯から、確立していた検査・実験系を活用して、道総研畜産試験場との共同研究で可能となったもので、予想以上の効果的な成果に繋がった。加えて、初年度の成果は国際専門誌に原著論文として発表した。これらの状況から、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上述のごとく成果は順調に上がっているが、一方で、細胞培養系に大きく依存した研究計画は、実際の生体内における現象と乖離するリスクが大きい。したがって、可能な限りウシ生体モデルで子宮内の精子、あるいは初期胚が誘導する免疫環境と免疫細胞群の詳細な情報を確立しながら、培養モデルでそれらの分子メカニズムを検証してゆく予定である。 1. (精子の作用) 体内観察モデルと体外培養モデル:ウシの子宮上皮細胞は、TLR2/4を活用して精子を認識していることを突き止めたので、ウシの繁殖現場で受胎率低下に大きく関わる「潜在性子宮内膜炎」の基本的なメカニズムにも焦点を当てる。すなわち、分娩後のウシ子宮内で主要菌であるグラム陰性菌とグラム陽性菌の内毒素であるLPS(TLR4リガンド)と PGN(TLR2リガンド)が、子宮上皮の精子認識をどのように撹乱するかについて、培養系で検証を始める。さらに、H 30年度に得た人工授精後の子宮灌流液を代謝物の網羅的解析であるメタボローム解析に供して、生体レベルでの包括的なマップ作成を行い、今後の人工授精技術改善の基盤情報としたい。 2. (初期胚の作用) 体内観察モデル:これまで、培養系を主体とした実験系を計画してきたが、ウシ生体レベルの子宮内環境の詳細な検証が最優先であることを再認識したので、受精卵移植モデルを活用し、受精卵回収の際のDay7に得た子宮還流液を詳細に解析する。まず、タンパクの網羅的解析(iTRAQ)、そしてmicroRNAの網羅的解析(miRNAseq)をおこない、Day 7の子宮内に分泌されているタンパクとmicroRNAを確定する。特に顕著な増加を示す分子について、実験的に培養した免疫細胞を用いて、直接的な影響を検証する。これらの局所環境が、子宮内免疫バランスを寛容型へ誘導しているかについても初めて検証する。
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