研究実績の概要 |
最終年度の2019年度は、脊髄損傷モデルマウスに対する治療実験をさらに進めた。BDNF mRNA投与後の脊髄の組織学的な解析により、脊髄損傷後の髄鞘構造が無治療群と比べて有意に高い割合で維持されており、BDNFによる神経保護効果が発揮されたことが明らかとなった。さらに脊髄損傷部位では、免疫反応を沈静化する抑制性サイトカインIL-10産生が亢進しており、脊髄損傷によって生ずる炎症をBDNF mRNAによって沈静化できる可能性も示された。 以上の結果を取りまとめ、Mol Ther Nucleic Acidsにて論文発表を行った。また国内外の学会で成果発表を行った。また本成果は東京医科歯科大学よりプレスリリースし、日本経済新聞など新聞各紙に取り上げられた。またMol Ther Nucleic Acids誌のカバーに選定された(Mol Ther Nucleic Acids: Vol.17, 2019年9月6日刊行)。 本共同研究の成果は、脊髄損傷に対するmRNA医薬、核酸医薬の応用の可能性を示した、世界で初めての報告である。脊髄損傷は外傷によって直接組織が損傷される(一次損傷)だけでなく、その後、数日から数週の経過で二次的に生ずる生体反応によって損傷が拡大することが知られており、BDNF mRNAはその神経保護効果、および抗炎症作用によって、脊髄の二次損傷を最小限に食い止める治療効果が得られたものと考えられる。mRNA医薬は、神経細胞に直接働きかけ、機能を修復・再生させる新しいタイプの医薬品として、脊髄損傷および脳神経系の疾患・外傷への広範な応用が、今後期待される。
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