非対称な軸成分や輪成分から成るカテナンやロタキサンなどの超分子は、超分子特有の不斉構造(topological chirality)を持つ。これらの超分子では輪成分の回転や軸成分の移動により、不斉構造が逐次変化し、超分子キラリティー自体が可動性を持つため、キラル超分子の不斉構築や不斉識別は極めて困難である。従って、カテナンやロタキサンの不斉合成法はジアステレオ選択的合成法に限られており、エナンチオ選択的な不斉合成法は未だ皆無に近い。このようような状況下、受入研究者は分子認識型不斉アシル化触媒を用いるラセミ体ロタキサンの速度論的分割を行い、topological chiralityを持つロタキサンを99% ee、29%収率で得ることに成功している(選択性 s値=16)。本研究では、この成果に基づき超分子の不斉合成法の展開を目的とした。特に、topological chiralityを持つカテナンの不斉合成法開拓を目的とした。 我々は分子認識型触媒を用いる位置選択的アシル化、および不斉アシル化を検討してきた。本研究ではこれらの触媒の高度な距離認識と不斉認識に基づき、片方の輪成分にNHNs基を持ち、もう片方の輪成分に水酸基をもつラセミ体カテナンの不斉アシル化による速度論的分割を計画した。合成したラセミ体カテナンに対し、上記触媒を用いる不斉アシル化による速度論的分割を行なった。生成物および回収した未反応カテナンはいずれも光学活性体であるが、その光学純度の決定は容易ではなく、光学純度の決定に至っていない。本研究期間での目標達成には至らなかったが、目標に向けての大きな手がかりを掴むことができた。また、同研究員は本研究課題に現在も情熱をもって取り組んでおり、このプログラムによりサポートしていただいた本共同研究の意義は、研究推進のみならず人材育成や国際交流の観点からも大きいと考えている。
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