研究課題/領域番号 |
17F17421
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
関水 和久 帝京大学, 医真菌研究センター, 教授 (90126095)
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研究分担者 |
PANTHEE SURESH 帝京大学, 医真菌研究センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-10-13 – 2020-03-31
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キーワード | 機能性RNA / 黄色ブドウ球菌 / 網羅的遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
宿主環境下、及び試験管内における次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析の結果を用いて、黄色ブドウ球菌で発現するncRNA候補として新たに21遺伝子領域を見いだした。一方で、これまでncRNAとしてアノテーションされていた遺伝子の中には、宿主環境下及び試験管内においてもほとんど発現が認められなかったものや、発現の向きが間違っているものなどが多く、これらについても再構築を図る必要があることがわかった。さらに、培地条件と比較して、心臓、肝臓、腎臓に感染している黄色ブドウ球菌において、それらの臓器で共通して遺伝子発現が有意に上昇する26遺伝子を同定した。また、それらの遺伝子破壊株の樹立に着手した。 また、これまでに病原性に関わることを明らかにしたrsaC遺伝子について、その機能の解析に着手した。まず、野生型株と、rsaC遺伝子破壊株及びその相補株の試験管内における増殖速度を比較したところ、それぞれ野生型株と差が認められなかった。これまでに、試験管内における網羅的遺伝子発現解析により、rsaC遺伝子破壊株は嫌気的代謝経路に関わる遺伝子の発現量が低下していたことから、嫌気的条件下における増殖速度についても検討したが、野生型株と差が認められなかった。従って、rsaC遺伝子欠損によって生じる嫌気的代謝経路の遺伝子発現の抑制は、試験管内において表現型として現れない程度のものであると考えられる。一方で、従来の研究において試験管内で病原性の指標とされている溶血活性、及びプロテアーゼ活性について野生型株と比較したが、明瞭な差は認められなかった。従って、rsaC遺伝子は試験管内において評価できる従来の病原性の機能に影響しないと考えられる。これらのことは、rsaC遺伝子の機能を解析することにより、従来の概念とは異なる病原性発揮機構を明らかにすることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、黄色ブドウ球菌のncRNA遺伝子領域について解析を行い、新規ncRNA遺伝子と考えられる発現領域を明らかにすることができた。宿主環境下及び培地条件下の両方の網羅的遺伝子発現解析の結果を用いて、全ゲノムに渡って解析ができた。また、rsaC遺伝子の解析にも予定より早く着手できたことからも、研究は順調に進展していると判断できる。一方、rsaC遺伝子の機能について、試験管内で評価できる病原性に関わる表現型、及び、当初予想した嫌気条件下での代謝経路の機能は、これまで検討した範囲では野生型との差は認められなかった。従って、当初の計画を変更する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、前年度及び今年度に作成したncRNA遺伝子の破壊株をマウスに尾静脈投与し、野生型株とその殺傷性を比較する。また、病原性における貢献が認められた場合、試験管内での培養系において破壊株及び過剰発現株と野生型株の網羅的な遺伝子発現の比較解析を行い、変動する遺伝子群の機能からncRNAの機能を推定する。rsaC遺伝子については、宿主環境下における破壊株と野生型株の振る舞いの違いに差があるか否か検討する。具体的には、感染後の臓器における菌数の変動、及び宿主環境下における遺伝子発現パターンに破壊株と野生型株とで有意に差が認められる遺伝子があるか否か検討する。有意に変動する遺伝子が見いだされた場合、その遺伝子の発現に対するrsaC遺伝子の機能を、プロモーター領域をGFPレポーター遺伝子に接続させたプラスミドを作成し、ncRNA遺伝子の発現のon/offによる発現制御の有無を検討する。発現制御が認められた場合、プロモーター領域及びncRNAの発現聖女に必要な部位を部分欠失体の解析から同定する。さらに、前述のrsaC遺伝子破壊株を感染させた臓器から得られたRNAを用いて、マウス側の応答についても野生型株の場合と比較することで、rsaC遺伝子破壊株がおかれた宿主環境が野生型株と異なっているか検討する。
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