細胞から分泌するエクソソームには、様々なタンパク質、mRNA、miRNAが含まれ、癌の進展や炎症免疫性に重要な役割を果たし、組織の再生修復にも深く関与することが明らかにされた。一方、心臓に存在している心筋幹細胞は、間葉系幹細胞の特性を示し、多量なエクソソームを分泌することがよく知られている。また、心筋幹細胞は放射線に対する感受性が高く、影響を受けやすいことが我々の最近の研究で明らかにされた(Sci Rep. 2017; 7: 40959.)。以上のことから、我々は、放射線被ばくが心筋幹細胞のエクソソーム分泌の変化を介して組織細胞傷害を引き起こすという仮説を立て、心筋幹細胞由来エクソソームはバイオマーカーおよび治療薬として放射線誘発心血管疾患の診断・予防・治療に役立つと考えている。 我々はヒト胎盤組織由来間葉系幹細胞に5Gyのγ線照射を行い、48時間後に細胞培養上清から超遠心法によりエクソソームを分離した。回収したエクソソームのサイズ分布、CD63発現、タンパク質含量については、放射線による著明な影響が認められなかった。しかし、回収したエクソソームにおけるmiRNAの発現を網羅的に調べたところ、放射線照射により多くのmiRNAは2倍以上に変化していたことが判明した。また、我々は回収したエクソソームを心筋細胞や内皮細胞の増殖、アポトーシス、DNA傷害、および機能に与える影響を調べた。その結果、非照射群と比べ、照射した間葉系幹細胞由来エクソソームは心筋細胞や内皮細胞に傷害を与えることを明らかにした。 本研究成果は、新たな角度から放射線誘発性心血管疾患の機序解明に寄与できる。
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