研究課題/領域番号 |
17F17703
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川上 則雄 京都大学, 理学研究科, 教授 (10169683)
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研究分担者 |
LECHTENBERG BENEDIKT 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-07-26 – 2019-03-31
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キーワード | 近藤効果 / 超伝導 / 多体効果 |
研究実績の概要 |
本研究は、局所的な多体効果に重点を置き、強相関系の平衡・非平衡現象の理論的研究を行うことを目的としている。特に、局所多体効果の典型例である近藤効果を中心に時間依存により発現する現象を解明する。 本年度は、不純物系での近藤効果に関する新奇な現象を理論的に解明した。特に、2不純物アンダーソンモデルに現れる新しいタイプの量子臨界点の存在を明らかにした。さらに、この考察をスピン相関関数の実時間ダイナミクスに拡張した。不純物間の距離が短い場合は、RKKY相互作用によって系の性質が支配される一方で、長距離の場合は近藤効果が相関関数の符合と振幅に大きな影響を与えることを明らかにした。 突然のパラメタの変化に伴うクエンチ非平衡ダインミクスに関しては、フェルミ速度を持った強磁性の波が系の中を伝わることを見出した。中でも最も顕著な性質は、不純物の距離がある特別な値をとるとき、相関関数は近距離でのみ変化するというものである。これは、この特別な距離においては、低温で伝導電子が不純物と分離するためである。この効果は、スピンキュービット作成するのに有用である。というのは、パリティの対称性は、スピン間のエンタングルメントを保護し、スピン相関が減衰するのを防ぐためである。この成果は、論文投稿準備ができている段階である。 現在、周期的に不純物が並んだ近藤格子における超伝導の研究を展開している。特に、スピン密度波に対する超伝導の影響を調べている。これまでにBauerらによってDMFTを用いて、このような系は研究されてきたが(Phys. Rev. B 79, 214518, 2009)、これはSU(2)対称性を破っているためスピン密度波には利用できない。京都大学のR. Peters講師と共同で対称性の破れをうまく取り入れる新しい方法を開発し、その有用性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた、局所的な電子相関の典型例である近藤効果のダイナミクスと、近藤効果と超伝導の絡み合いによる新奇な現象を理論的に理解することができた。これには、最先端の数値計算の方法である数値繰り込み群を用いた。精度が高く信頼できる結果が得られている。 また、共同研究に関しても、本研究室の講師であるRobert Peters氏と相補的な方法を用いることで、高いレベルの協力関係を生むことができた。京都大学に来てから始めた近藤効果と超伝導のテーマに関しても、着実の成果が得られつつある。現在、論文発表に向けて成果をまとめているところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の局所的な不純物系の理論研究を継続して進めるとともに、遍歴する多体系に研究の重点を置く。H29年度の研究で、重い電子系における超伝導と磁気秩序の関係をある程度明らかにすることができた。この研究をさらに展開し相転移の性質をより詳しく調べ、相図を完成する予定である。さらに、half-fillingの条件からずれた場合の、スピン密度波への超伝導の影響も調べる。 また、強相関電子系の量子相における相関関数の実時間ダイナミクスに関する研究にもチャレンジしたい。主に代表の川上と分担者のLechtenbergが研究を進めるが、多体系の数値計算の専門家である、同じ研究室所属のPeters講師とも共同研究を継続する。異なる理論手法を合わせて用いることでシナジー効果が生まれ、重い電子系において面白い成果が得られると考えている。
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