近藤効果は、そのテーマの面白さとは裏腹に理論的にたいへん手ごわい問題である。これを扱うには、進んだ理論手法が特に重要となる。このため、本研究では数値繰り込み群という強力な理論手法を用いて研究を行なった。以下に本年度の成果をまとめる。
(a) 2不純物系の近藤効果:スピントロニクスなどへの応用も期待される2不純物近藤模型の研究を精力的に行い、その成果を3編の原著論文としてPhys. Rev. B誌に出版した。論文タイトルの和訳は:●「1次元2不純物模型における現実的な量子臨界点」●「2不純物近藤モデルにおけるスピン相関関数の平衡・実時間の性質」●「2不純物アンダーソンモデルにおける有効低エネルギー記述」、である。これらの論文では、2つの近藤不純物の間の相関を詳細に調べ、物理的なパラメータを変化させたときに現れる興味深い量子臨界点の性質を明らかにした。数値繰り込み群を用いた正確な計算を基にした面白い成果である。この研究はLechtenberg氏が中心となり進めたものである。
(b) 近藤格子系における超伝導と磁気秩序・電荷秩序の競合: 上記の近藤不純物のテーマはLechtenberg氏が以前より研究を始めていたものであるので、短期間に論文として成果発表することができた。一方で、本年度新たなにチャレンジしたテーマに関しては、多くの下調べに基づいて、近藤格子系の超伝導を取り上げた。これは、重い電子系CeCu2Si2の超伝導に関する最近の実験結果に触発されたものである。特に重い電子系を記述する近藤格子模型に、短距離の引力相互作用を導入した時の超伝導と磁気・電荷秩序との競合を調べた。この研究のため、超伝導と磁性が共に扱えるように数値繰り込み群の方法を改良した。得られた結果は●「引力ハバード相互作用をもつ近藤格子における電荷・磁気・超伝導の協奏」というタイトルで原著論文として出版した。
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