研究実績の概要 |
薬剤耐性菌の出現とその急速な蔓延は、既存の抗菌薬を無力化しつつある。グリコペプチド系抗菌薬は、半世紀にわたりブドウ球菌感染症治療の切り札として使われてきた。しかし、グリコペプチド系薬耐性黄色ブドウ球菌(VISA)が1996年に本邦で報告されて以降、世界中から相次いで報告され、現代医療に脅威をもたらしている。本研究は、グリコペプチド耐性Staphylococcus capitisの耐性分子機序を明らかにすることを目的とした。まず、同一患者から分離したバンコマイシン(VCM)耐性菌TW2795-1株, テイコプラニン(TEIC)耐性菌TW2795-3株と両剤に感性を示すTW2795-4株を用いて、それらの全ゲノム解析を行い、VCM耐性とTEICに関わる遺伝子の同定を行った。全ゲノムの比較解析で、耐性株には二成分制御系センサー因子の一つであるwalK遺伝子に点突然変異(L566R)が起こっていたことが判明された。引き続き、遺伝子置換実験や遺伝子転写解析などを行い、walK変異がStaphylococcus capitisにVCMとTEIC耐性をもたらした原因であることを明らかにした。 今回解析した耐性菌2株(TW2795-1とTW2795-3)は、VCMとTEICに対して逆交差耐性を示した。耐性株TW2795-1はVCMに高い耐性を示す反面、TW2795-3はTEICに高い耐性を示していた。TW2795-1とTW2795-3のVCMとTEICのMICsはそれぞれ、8,8 と4, 32 microg/mlであった。このような同じクラスの抗菌薬(ペプチドグリカン系抗菌薬)に逆交差耐を示す現象は臨床で散々報告されているが、その耐性機構は不明である。今回の解析で、WalK因子のL566R変異はVCMとTEICに対して逆交差耐性を起こす原因であることも明らかになった。
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