石油成分である長鎖n-アルカンや天然ガス成分であるメタン、エタン、プロパンなどの炭化水素類の起源および生成・分解履歴を突き止めることは、地球学分野における重要な研究課題の1つである。これら炭化水素類の起源・履歴推定には、安定炭素同位体分析が利用される。その際には、これら炭化水素類の起源となる生物由来脂肪酸の炭素同位体的特徴とその生物学的支配要因の理解が不可欠である。 生物が作り出す脂肪酸は、糖やアミノ酸に比べ分子全体として13Cに欠乏した同位体的特徴を示すことが知られてきた。この13C欠乏は、脂肪酸合成経路における同位体効果に由来することが1977年にDeNiroらによって提案された。しかし、その後、脂肪酸の分子内位置別13C分布が1980年にHayesらによってはじめて計測され、その結果からピルビン酸デヒドロゲナーゼ酵素反応のみでは説明できない分子内位置別13C分布が見いだされた。つまり、脂肪酸の13C欠乏を導く他の要因があることが示唆された。その後、現在に至るまで、脂肪酸の13C欠乏および分子内位置別13C分布の特徴の支配要因は未解明のままである。本研究では、この生物由来脂肪酸の分子内位置別13C分布の支配要因の解明に取り組んだ。 上述のHayesらによって行われた位置別13C計測は、脂肪酸分子内の二重結合部分を計測する特殊な手法であり、脂肪酸類一般に適用できるものではなかった。さらに非常に煩雑な前処理を要するものであった。本研究では長鎖脂肪酸の位置別13C計測法を確立し、次に代謝の異なる生物種から取り出した脂肪酸に適用することで、分子内位置別13C分布を支配する代謝経路の特定を試みた。 これら位置別同位体分析技術の装置改良を行い、昨年度のi-ブタン、n-ブタンに続いて、長鎖脂肪酸の位置別同位体分析を確立して適用し、大変興味深い結果を得て現在、論文投稿準備中である。
|