研究課題/領域番号 |
17F17737
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
年吉 洋 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (50282603)
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研究分担者 |
DURAND BRIEUX 東京大学, 生産技術研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-10-13 – 2019-03-31
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キーワード | MEMS / エレクトレット / 振動発電 / IoT |
研究実績の概要 |
半導体シリコンマイクロマシニング技術を用いて、面積1cm×1cm程度のチップ内にエレクトレット(永久電荷)を帯びた小型の振動素子を集積化し、0.01G(重力加速度の1/100程度)、周波数10Hz程度の振動から10μW程度の電力を発生する振動発電素子を設計・製作した。また試作した素子を用いて簡単な無線素子(ZigBeeなど)を駆動して、IoT(Internet-of-Things)エレクトロニクスへの電力供給方法として環境・人体振動発電が有効であることを示した。研究1年目の平成29年度には特に、振動発電素子のエネルギー変換効率に関する等価回路モデルを構築し、設計パラメタと変換効率、出力インピーダンスの関係を明らかにするとともに、実際に試作を行ってモデル構築に必要なパラメタを抽出した。この結果、エアコン室外機や工業用モーターのように一定周波数・加速度で連続振動する振動源のみならず、高速道路や建物、橋梁のように、数Hzから数百Hzに欄段振動の周波数が分布しているような振動源に関しても、そこから回収可能な振動エネルギーを等価回路モデル解析によって予測可能となった。さらに、シリコン製のMEMS振動発電素子チップの形状を枚葉式に積み重ねられるように設計することで、出力を枚数に応じて整数倍に増大可能なデバイス構成手法を考案し、実際にMEMSプロセスを行って、積み重ね実装が可能であることを示した。本研究は、平成30年度に開催されるPower MEMS 系の国際会議に投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
エレクトレット(永久電荷)を帯びた可動電極によるMEMS振動発電素子の等価回路モデルを構築する過程で、入力加速度に応じて機械的な振幅が増大するにつれ、電極間の噛み合わせが段階的に変化するように設計すると、発電効率を高められることが判明した。すなわち、蓄電回路に電圧が十分に溜まっていないときには、整流回路のダイオード電圧(0.7V)を越すために比較的高い出力電圧が求められるのに対して、一定以上の電圧が蓄積した後は必要以上の電圧よりも、電流を増大することで電荷蓄積をより速やかに行うことができる。これは、一定電力を送りつつも、(電圧)×(電流)のそれぞれを条件に応じて制御することに等しい。このような、インピーダンス可変型の振動発電素子の実施例として、櫛歯型電極のギャップを空間的に変調した新たな素子を考案した。具体的には、初期状態で櫛歯(多数)の先端どうしが突き合わされた状態では、櫛歯電極相互の間隔を10μm程度に設定している。一方、外力加速度が入力されて櫛歯が相対的に100μmほど動作するときには、相対的な距離が5μm程度になるように櫛歯間のギャップを正弦波的に空間変調した構造レイアウトを用いることにした。また、単位面積あたりの電力出力を拡大するために、MEMS振動発電素子の取り出し端子やフレーム構成を規格化して、複数チップを縦に積み上げるデバイス構成を考案し、実際に試作を行った。これらの新たなMEMS振動発電素子の設計方針にもとづいて研究開始1年目に試作・評価を行って、当初計画予定以上の研究成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目の平成30年度は、前年度までに構築したMEMS振動発電素子を用いて、ノーマリーOFF型コンピュータの待機電力を供給可能であることを実験により実証する。特に振動発電素子の出力電流×電圧を整流してキャパシタに蓄電したのちに、必要電力を効率よく汲み出すスイッチドキャパシタ形式のレギュレータ(電源管理)回路を設計する。さらに、実際に振動発電素子、レギュレータ回路を用いて小型のエッジコンピュータを駆動し、環境振動・人体振動のエネルギースペクトル(エネルギー源)とエレクトロニクス機器の稼働速度・稼働時間の関係を実験により確認する。また、学外の研究者と連携して、MEMS型振動発電素子を実装したプリント基板そのものも振動発電として機能する新たなデバイス構成を検討する。通常はガラス・エポキシ系の材料で構成されることの多いプリント基板であるが、これをPVDF系の圧電ポリマーを材料とした構成に置き換えて、外部振動によって発生する圧電分極を効率良く回収することで振動発電素子として機能する機構を試作し、実際に評価する。この圧電振動発電基板と、その上に搭載したシリコン静電型振動発電素子が有効に機能する周波数帯域はそれぞれ低周波数、高周波数領域で棲み分けられるため、広い周波数帯に分布する環境振動を効率良く回収する手法として有効に機能するものと考えられる。さらに、2年間の研究成果をMEMS分野では採択率の厳しい国際会議IEEE MEMSやTransducersで口頭発表することを目標とする。
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