研究課題/領域番号 |
17F17750
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西野 友年 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (00241563)
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研究分担者 |
GENZOR JOZEF 神戸大学, 理学研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-07-26 – 2019-03-31
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キーワード | フラクタル / テンソルネットワーク / 特異値分解 / ランダム系 / シミュレーション / 相転移 / エンタングルメント / 非一様 |
研究実績の概要 |
フラクタル格子上の古典統計力学的系の、テンソルネットワーク手法による熱力学解析を中心に、相転移現象の解析を進めた。まず準備として、立方格子状の3次元イジング模型の高次特異値分解を用いたテンソル繰り込み群(HOTRG)手法による内部エネルギー及び自発磁化の計算を行い、モンテカルロ法による計算結果とほぼ同一の結果が得られることを確認した。この試行計算プログラムを改変することにより、3次元的なフラクタル格子上のイジング模型について、その臨界現象を解析した。この格子は、大きさ 4x4x4 のブロックから 32 個の格子点を除いたもので、フラクタル次元は3以下である。内部エネルギーと磁化が示す臨界指数からは、熱力学的な有効空間次元が2以下であることがわかった。もう一つの研究対象として、空間的に非一様で、回転や空間反転の対称性も持たない、ランダムスピン系を考え、行列積状態を用いた熱力学的定常状態の解析を進めた。特に、ボンド相互作用が+J又は-Jである、ボンドランダムイジング模型の相転移を、系の表面状態を量子力学的波動関数に見立てることによる、エンタングルメント・エントロピーの温度依存性に着目して、臨界点付近の特異性を数値解析した。その結果、内部エネルギーに特異性が現れないことが知られている西森ポイント直上であっても、エンタングルメント・エントロピーには鋭いピーク形状の特異性が現れることが判明した。非一様系について、新たな方向への探索の一環として、多数のエージェントが互いに相互作用しつつ、状態発展して行く社会的模型についても検討を始め、ネーミング模型などが非一様な格子上で示す状態変化を追う計算シミュレーションを行った。エージェント同士が出会った際の局所的状態変化のルールが状態変化の速さに影響を与えることを確認し、スケールフリーネットワーク上では、一様格子とは様相が異なることが観察できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非一様な統計物理系の平衡状態解析を、テンソルネットワーク形式を用いた大規模数値計算により進めるという、当初の目的は、いくつかの限られた構成を持つフラクタルに限ってではあるが、具体的に相転移解析を行うなど明示的に実現されたと言って良いだろう。フラクタルのバリエーションを増やし、ハイパースケーリングの成否を判定して行くため、システマティックなフラクタルの生成を検討を行っている。格子の階層生が臨界現象に与える影響を検討する目的で、系のあらゆる場所で、局所的なエネルギーや磁化を計算する手法も確立した。その結果として、結合するブロックの大きさにより、結合部分の特異性が異なって来ることが判明している。この、一様系にはない場所依存性については、まだ定性的な理解が得られていないので、簡単な実空間繰り込み群のモデルを通じて、試行的な考察を行っている所である。ランダムスピン系については、統計的なランダム平均を並列計算により高速に進める方法を確立し、統計誤差を1/3以下に抑えることが可能となった。高速な計算ライブラリを、パイソンなど最近のプログラミング言語から用いる方法に習熟したことも、計算の効率化に大きく寄与した。このような計算を通じて求められたエンタングルメント・エントロピーのスケーリング解析では、原田氏により開発された、ベイズ推定を用いた外挿により、先見的な知識を用いることなく臨界指数を決定することが可能となった。更に統計誤差を圧縮する目的で、スーパーコンピューターを用いた並列計算を導入することにし、京コンピューターの利用も、部分的にではあるが、導入している。これは、将来的により高性能の並列計算機器が利用可能になった時点で、直ちにより大規模な数値解析に取り掛かる準備でもある。以上の経緯を通じて得られた成果について、報文に取りまとめる作業を順次進めている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、非一様系の統計力学解析を進めて行く。フラクタル系のバリエーションを増やす目的で、正方格子からサイトを間引いた形状を持つ、シェルピンスキー・カーペットにまず着目したい。このフラクタルは異なる形を持つ二つのブロックが再帰的に組み合わさることで生成され、これまで取り扱って来たフラクタルに比べて、複雑な構造を持っている。まず、この格子生成に合わせた繰り込み群手法を確立したい。また、空間次元を調整する目的で、負の曲率を持つ双極格子上で生成されるフラクタルについても、熱力学解析を検討して行く。拡張の一環として、フラクタル格子に乗った、量子スピン系の基底状態解析に、新たに取り組む。具体的には、三角格子からサイトを間引いた形状を持つ、シェルピンスキー・ガスケット上の横磁場イジング模型の基底状態相転移を解析対象とする。分配関数を表す、虚時間発展をトロッター・鈴木変換により古典格子上で表現することにより、高次特異値分解を用いたテンソルネットワーク繰り込み群を適用し、絶対零度での物理量を精密に定量評価して行く予定である。この場合、空間方向と虚時間方向は同等ではなく、強い異方性が生じるため、直接的なテンソルネットワーク形式の応用は計算上の不安定性を呼び起こす懸念がある。異方性の下で、どのようなテンソルの組み合わせが、確実な計算結果を導くかについても、検討を重ねて行きたい。計算技法については、GPUを用いる並列計算の導入などプログラミング上の工夫から、特異値分解の前処理としてランダム行列を作用させるなど、数学的原理に基づく計算量のコントロールまで、幅広く導入を検討して行き、将来の大規模並列計算に備えたい。新たな着想が得られた場合には、臨機応変に研究を深めたい。研究を通じて得られた成果については、報文にまとめるとともに、国際的な会議・ワークショップ等を通じて、順次公表して行く。
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