グラフェンの部分構造を切り出したナノグラフェン類は,新しい機能性材料として近年特段の興味を集めているが,そのほとんどがグラフェンの規則構造である六員環を骨格とした設計である.本研究では,グラフェンの欠陥として存在することが知られる五員環や七員環を含む新規ナノグラフェンとして,アズレンを縮環したアズピレンを基本骨格とするナノグラフェンの合成と,その機能開拓に取り組む.共通中間体を経る効率的合成法と,高分解能電子顕微鏡による構造解析を駆使し,様々なアズピレン誘導体を合成し,その物性を探索する.全く新しい構造をもったこれら化合物は従来のナノグラフェン類にない光学特性,および電子特性を示すことが予想されている. 本研究では当初,新規ナノグラフェンとして,アズレンを縮環したアズピレンを基本骨格とするナノグラフェンの合成に取り組んだが,目的の化合物を得ることができなかった.そこで,アプローチを変えて,適切に官能基化したフラーレンの自己集合によって二分子膜を作製し,これを後に有機小分子によってドーピングして積層グラフェン様の薄膜を形成させる方針に変更して研究を進めた.その結果,両親媒性フラーレンを水面上に注意深く配列させることで厚さ3nmの膜を生成させることに成功し,電子顕微鏡観察および電子線回折によって,これがアモルファスの膜であることを確認した.また様々な有機分子をドーピングしても安定に膜が形成することを見いだした.様々な単離法を案出して,空気中でも独立に存在する膜として取り出し,この膜に対して,紫外可視光吸収,赤外吸収,ラマンスペクトルなどの基本物性を精査し,また,X線回折,中性子線回折による構造解析および電子顕微鏡によって分子集合体の集合構造の解析に取り組んだ.その結果,単離した膜は,プロトン移動による導電性を示す数ナノメートルの厚さの分子性の膜であることが分かった.
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